噛み合わない私たち

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「意地悪、強引、俺様、毒舌……」 背中に回された湊の手が、あやすようにそっとリズムを刻んでいる。 「それで怒ってんの?」 「……怒っては、ない」 包み込まれた湊の胸に、れんげはもたれかかった。 「湊が……好き」 背中を叩くリズムが止まる。 好き、という言葉は湊にとって重いのかも知れない。 過去に傷ついた記憶が、好きという言葉を信用できないものとして湊に植え付けてしまったのだから。 れんげの瞳にまた涙が浮かんできて、頬を伝った。 顔を覗き込んだ湊が、不可解だと言いたげに眉根を寄せている。 「じゃ、何で泣くわけ? 呼び出されんのが気に入らねえの?」 涙を拭いながら、れんげは頭を振る。 「違う、違わないけど。私じゃ湊に釣り合わないってわかったし、本性をバラされないための恋人ごっこは、もう無理なの。辛いから、やめよう?」 無理やり笑おうとしたけれど、涙は零れた。 バンッ、と頭の後ろで鳴った音に、れんげはびくりと肩を竦める。塀を叩きつけた湊の腕が、れんげの頭の真横にあった。 「誰が恋人ごっこしてんだよ。ボランティアで付き合ってんじゃねえって言ったよな。鈍感か」 苛立ちを隠しもせずにぶつけてくる湊に、れんげはやはり言い返してしまう。 「鈍感で悪かったね! 湊が何考えてるかなんて、言ってくれなきゃわからないもん!」 ぐっと近づけられた湊の双眸に睨まれ、れんげは口を噤む。 つい勢いで言い過ぎてしまった。 またこれだ。 湊の強い口調にいつも言い返してしまう。 「……もうやだ」 れんげはフイと顔を背けた。 頰を伝った涙の跡を、夕日が照らし出す。
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