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告白するぞ
「成瀬君!」
昇降口まで来てやっと追いついた湊に声をかけ呼び止めた。
「何?」
振り返った湊の柔らかな笑顔が堪らなく素敵で、れんげはついうっとり見惚れてしまう。
「早川さん、俺に何か用事かな?」
呼び止めておいてぼんやりするれんげの顔を、湊は腰を折って覗き込む。
その姿だけでも通り過ぎる女子たちの視線を集めてしまうほどのイケメン振りに、れんげもすっかり魅入ってしまいそうだった。
「あ、そ、そう! 用事があって。ちょっとだけ、話す時間もらえないかな?」
今日こそ告白するのだと、れんげは決めていた。決心したのは今朝のことだ。
クラスメイトではない女子が湊の噂をしているのを登校時に聞いてしまい、このまま何もしないで誰かに取られてしまっては後悔しまくりだと焦った。
「10分くらいでも、大丈夫かな?」
昇降口の時計を確認した湊は、爽やかな笑顔を見せる。
湊の笑顔はいつも崩れない。
一体どうしたらこんなに素敵な笑顔のイケメンができるのだろうかと考えながら、承諾してもらった嬉しさにれんげの唇は弧を描いた。
「うん、ありがとう」
時間を割いてもらう事の礼を告げると、なるべく人気のない中庭へと誘った。
折角の告白を、誰にも邪魔されたくない。
誰もいないベンチの辺りで立ち止まり湊を振り返ると、ツインテールにしたれんげの柔らかい髪が揺れ動いた。
自然とカールした栗色の髪が両頬の脇でゆらゆらと動いているのが、高校2年生にしては幼さを感じさせてはいるが、本人以外から見ればこの上なく可愛いらしい。
「用事って、何だったかな?」
湊の優しい言葉の発し方に、れんげは素直に好感を抱く。
「う、うん。忙しいところをごめんね。用事ってほどじゃないんだけど……あの、よかったら、私と……お付き合いしてください!」
勢いで頭を下げたために、湊の表情はれんげから見えない。
ドクドクと心臓の動く音だけがいつになく大きく聞こえ、テストの結果を見る時のような緊張感に包まれた。
(断られたらどうしよう、でも、もしかしたら……)
「早川さん」
気がつくとぎゅっと目を瞑っていたれんげは、湊の声におずおずと顔をあげる。
そこにはやはりいつもの優しい笑顔があった。その笑顔に、もしかしたらと胸が膨らむ。
「ごめんね。今は誰とも付き合う気になれないんだ」
湊は爽やかな笑顔を崩さずに、れんげの告白を拒んだ。
「……え? あ、そうなんだ……そっか」
力が抜けたように、れんげはヘラヘラと笑って見せた。
「じゃあ、ごめん、行くね?」
「あ、うん……」
自分から告白して振られることがこんなにもショックだと、れんげは今日初めて知った。
今日が人生初の告白だった。
白い肌に大きな栗色の瞳、栗色の髪はクルンと自然にカールしていて、体型は標準。
他人から見ればとにかく可愛らしい容姿に見えるようで、そのせいか今まで何度か告白されたことはあった。
けれど好きという気持ちが今ひとつ掴めず断ってきた。
断られるのがこれほど堪えるとは知らず、なんだか今まで申し訳ない事をしてきたとの気持ちも芽生える。
けれどもめげないポジティブなところがれんげの長所なのだ。
せっかく芽生えたこの思いを簡単に諦めるのは嫌だった。
今日がダメでも明日があるさ! と、すぐに気持ちを切り替えて青空を見上げた。
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