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デート
待ち合わせ時間より1時間も前に指定の駅に到着したれんげは、書店の雑誌コーナーで頭を悩ませてせいた。
昨夜、スマホに届いた湊からのメッセージを開くと、信じられない内容が記されていた。
『明日、俺の貴重な時間をお前にやる』
書かれたは言葉は高慢だったけれど、それは間違いなくデートのお誘いだった。
もちろん舞い上がっている自覚はある。
思いが通じ合って初めて、デートに誘ってもらえたのだから。
何を着て行こうか迷いに迷い、白いミニスカートに淡いピンクのシフォンブラウスを選んだ。ちょっと甘すぎるかなと思い、足元はスニーカーにしておいた。
初めてのデートで気合が入りすぎかもとは思ったけれど、少しでも可愛いと思ってもらいたい女心だ。
それでも湊の隣に並ぶのに子供っぽ過ぎないだろうかとの不安は完全には拭えず、こうして雑誌で調べているところだ。今更ではあるのだけれど。
(恋って、こんなに悩むものだったんだ)
れんげは見ていた雑誌をそっと元に戻した。
外の空気を吸いに行こうと通路からゲートへ差し掛かると、平積み本たちの前で私服姿の湊と出会った。
目が合って、二人して数秒固まる。
私服姿を見たのはお互い初めてだから、戸惑ったのだ。
「湊?」
れんげが声をかけると湊は一瞬息を飲んだように見えたが、すぐにいつもの彼に戻っていた。
「お前、来るの早いな。そんなに楽しみだったか、俺に会えるのが」
目の前にいる私服の湊があまりに格好良くて、しかもこれからデートをする相手だなんてちょっと信じられないという思いで、れんげは彼を見つめる。
スッキリした黒のテーパードパンツにカーキのゆるっとしたTシャツ。裾からは中に着た白のTシャツがちらりと覗いている。
飾り立てていないのになんだかオシャレで、浮ついたところがない。湊にぴったりで見惚れてしまった。
「あ、うん……」
思わず素直に答えてしまったれんげは、照れ臭くてヘラヘラと笑った。
湊に促され外へ出ると、プラプラと辺りを歩き可愛いものをたくさん見た。
湊は興味なさげに付き合っている程度だが、れんげが微笑みかけると少しだけ口元を緩めてくれるのが嬉しかった。
それから、ずっと繋がれていた手。
外は少し暑かった。時々意地悪なことを言われたりからかわれたりした。
それでも湊は繋いだ手を離そうとせず、れんげにはそれがたまらなく嬉しかった。
いつまでも楽しい時が続けばいいのだけれど、オレンジ色に染まった空が次第に夜を連れてくる。
「そろそろ帰るか。家まで送ってやる」
「……うん。でも、本当はまだ帰りたくないなぁ、なんて」
気恥ずかしさを隠そうとおどけた口調になるれんげの隣で、のんびりと歩いていた湊が足を止めた。れんげもつられて立ち止まる。
何を言われるかと上目遣いに湊を見上げると、呆れたような彼と目が合った。
「お前さ、意味わかって言ってんの?」
「意味?」
キョトンと首を傾げると、湊は盛大なため息を吐いて見せる。
「俺は男だからな」
「そんなのわかってるよ」
「わかってねえよ。このまま夜になってずっと一緒にいたら、俺に何されるかわかんねえ?」
耳に届く湊の声が、艶っぽい。
繋いでいない方の手で髪に触れられたと思うと、その手はするりと頰を覆い、れんげの下唇を弾いて離れていった。
ボッと顔が熱くなり、れんげは慌てて声をあげる。
「か、帰ろうか!」
「くっ、くくっ」
笑い出す湊に、やはりからかわれてしまったのか、と悔しくなる。
いつか見返してやるんだから、とれんげはこっそり決意し、ぎゅっと湊の手を握りしめた。
END
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