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プロローグ
「目が釘付け」とは、この事をいうのだろう。
じっと見つめるその先に、芸能人かと思うほどに整った顔の男子が現れた。
サラサラそうな茶色い髪に、すっとした鼻筋。広い背中は自然にピンと伸びて、長い足は机の下に入れば窮屈そうだ。
彼は席に着くなり鞄から教科書を取り出し、トンと揃えると机の中に入れた。普通の事をしているだけなのに洗練されて見える。
早川れんげにとって初めての経験だった。
「ねえ! あんなイケメン、うちの学校にいたっけ?!」
れんげは大きな目を瞬かせ、今年も同じクラスになった親友の山下泉に詰め寄った。
「れんげ、近い」
文句を言いつつもれんげの視線を辿った泉は、信じられないというように黒い瞳を見開くと、腰窓の前に立つれんげを見上げる。
れんげの視線の先には、女子からの圧倒的支持を得るハイスペック男子の姿があった。
「あれは成瀬湊君、成績はいつも学年2位で、顔良し、運動神経良し、性格良し。逆に知らない人いたんだ、って感じ」
「うっ」
泉の、ソフトだが遠慮ない物言いに返す言葉もないれんげだが、彼の情報が掴めて満足だった。
泉の辛口にはもう馴れっこで、このくらいではダメージはない。
こういう誰でも知っているような事柄にとんと縁がないらしく、なぜがれんげの耳には入ってこない。
どこから情報を得ているのか、知らない事は泉に聞けば、勉強でも何でもわかりそうだから頼りになる。
「成瀬、湊君か……」
れんげの小さな唇が、キュッと弧を描いた。
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