雪だるま

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雪だるま

クラスメイトたちが雪合戦に興じるのを眺めながら、はあっと息をはいた。白い息が一瞬で消えて行く。 高校生になって最初の冬。珍しく雪がつもった今日、たまたま一時間目は体育だった。本当なら持久走のはずが、「せっかくだから雪遊びに変更だって!」という体育係の一声に、みんな大はしゃぎして外に出た。 きゃあきゃあ声をあげるクラスメイトたちを見て、みんなまだ子どもなんだなとぼんやり感じる。それとも大人も、雪合戦ではしゃいだりするんだろうか。 雪を投げて笑い合うクラスメイトを遠目に、かじかむ指に息を吹きかける。一人で走る持久走なら誰とも話さない理由ができる。こういう自由な遊びの時間は、なんだか苦手だ。 あの人がここにいたら、少しは楽しめるかもしれないのに。私はちらりと校舎を見やった。今ごろあの人は暖かいどこかの教室で授業中だ。 「雪合戦やらないの?」 同じクラスの男子が声をかけてきた。一人でいる私を気づかってくれたんだろう。 「私はいいや」 「へえ」 ちょっと微妙な表情をした彼は、またみんなの輪に戻っていく。 わかってる。こういうときに、ノリ良く遊べない私の方が、みんなよりずっとずっと、子どもだってこと。だけど私は、みんなと同じになるのが、どうしても嫌だった。自分だけは特別で、ちょっと違うんだと、そう示すことでなにかが変わるのではないかと期待していた。 サクサクと雪を踏みながら、グラウンドを出て校舎のはしにある駐車場へ向かう。 あった。黒のロードスター。彼いわく、「頑張って買った」スポーツカー、らしい。車なんて全然興味もなかったのに、この車種だけは覚えてしまった。 駐車場の雪は車輪や誰かの足跡でぐちゃぐちゃになっていて、端の方にだけ、まだきれいな雪が残っているのを見つけた。しゃがみこんで雪玉を二つ作る。ぎゅっぎゅっと固めながら、あの人がこれ見たらどんな顔するかななんて、想像した。 「できた」 ちょっといびつな小さな雪だるま。車体の前にちょこんと乗せる。 ちょっとしたイタズラの気持ちだった。 私はこんなことでしか、あの人と関われない。そのむなしさを感じながらも、これを会話の糸口にするんだと、口元をゆるめた。
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