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週末はよく晴れて気持ちのいい青空が広がっていた。
懐かしい道のりを歩いていくと遠くに見慣れた生垣が見えた。今もまだあの家を守っている。
昔よりガタが来ているのは見るからに分かった。一呼吸してから玄関の呼び鈴を押す。
「葵登!!」
飛び出す様に出てきたノリさんは数年の時を経てもなおきれいで優しい笑みを浮かべていた。
「お久しぶりです」
頭を下げ照れ臭そうに微笑むと、ギュっと抱きしめられた。
「嬉しいよ。来てくれて……元気そうでよかった」
ふわりと鼻をかすめるノリさんの匂いに、キュっと胸が締め付けられる。
「これ、美味しいって聞いていたので」
セレクトショップで選んだワインとおつまみを手渡すとびっくりしたようにそれを受け取り、柔らかく微笑んだ。
「ありがとう、……大人になったね、葵登」
眩しそうに見つめるノリさんの後ろからノッソリと直も顔を出した。
「よお」と相変わらずぶっきらぼうだ。
「どうも、ご無沙汰しております」
久しぶりに入った家の中はあの頃と何も変わらず、時間が止まったかのようだった。
「ゆっくりしていけるんでしょう? お布団も用意しているから泊まっていきなよ」
次々に出される料理とお酒に葵登は手伝おうと席を立った。並んでキッチンに立つとノリさんの背を抜いていたことに気がついた。
「大きくなったなあ」
ノリさんも気がついたようで、苦く笑いながら頭を撫でた。
「本当に。いい男になった」
「ノリさん……」
どんな顔をすればいいのかあんなに悩んだのが嘘だったかのように穏やかに接することができている。
「おれ、ノリさんに謝らなきゃいけないってずっと思っていました……」
あんなに苦しくて悩んだ時間は葵登の成長の糧になった。だけどノリさんを傷つけていいことではなかった。もっと上手に伝えなきゃいけなかったのだ。
「ごめんなさい」
頭を下げるとノリさんは黙ったままじっと葵登を見つめた。
「ノリさんを傷つけてしまって……頭に血が上ってわけがわからなくなって……謝っても許してもらえることではないけど……ごめんなさい」
「うん」とノリさんが小さく頷く。それを遮ったのは直だった。
「違うだろ、葵登」
いつからいたのかキッチンの壁にもたれて2人のやり取りを見ている。ギクリとするノリさんはあの事を直に話していなかったのだろう。
「直……」
「他にもっと言うことあるんだろ」
じっと見据えられて、葵登はゴクリと唾を飲んだ。もしかして直はあの事に気がついていたのに黙っていたのか?
「ノリさん……」
葵登はノリさんと直に見つめられながら口を開いた。
「ずっと好きでした。恋愛対象として、想っていました。ノリさんが欲しくて、我慢できなくて……あんなことをしてしまったけど、ずっと好きなままでした。抱くことができて幸せでした。ありがとうございます」
「葵登……」
ノリさんに傷ついた表情が浮かぶ。
「ごめんね」と言葉が漏れた。
「知ってた。葵登の気持ち……もしかしてそうかなって、気がついてた。でも知らないふりをするのが正解だと思ってた。あんなことをさせたのはおれのせい。直も黙っててごめん。」
ノリさんは続けた。
「葵登のことを受け止めたのは、あげられるものが身体しかないと思ったから。直のことを愛しているから、葵登の気持ちは受け入れられなくて……でも身体をあげれば気が済むかなって簡単に思ったのは間違いだった。余計に葵登を傷つけて追い出してしまった。ごめんなさい。……そして好きになってくれてありがとう」
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