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翼君は辛い現実を受け入れ、前を向いて生きていくことを改めて決意したようだ。悲しさや寂しさをたたえていた瞳からは、この姿で生きていくという覚悟が読み取れた。
「まあ、塾で働いていると、前の塾の生徒が生前の僕に気付くかもしれません。そうなると、名前を偽装した方がいいんですかね?」
「すでにばれていますけど……」
『名前をそのまま使っているとは、未練たらたらだな。まあ、別にそのままでも構わんだろう。何せ、お前の働く塾には死神もいるし、そこに記憶改ざんできる能力者もおるしな』
ちらりと私の方を見る九尾は、にやにやと笑っていた。
『すでに翼の正体がばれているようだが、ふむ、そいつらは……。なかなか珍しい能力者の様だな』
私の心を読んで、感心している九尾に疑問を覚えた。
『翼の正体を指摘したその三つ子とやらは、おそらく……』
もったいぶったように言葉を止めた九尾は結局、三つ子が能力者であり、ばれても問題はないということしか教えてくれなかった。肝心のどんな能力を持っているかまではわからずじまいだった。
「塾のこと以外では、ふむ、翼はもう、心配はいらないようだな。それにしても、どうしてお前は狙われていたのだ。昨年の文化祭であの女と別れの挨拶をしてきたのだろう?」
「それは……」
言いにくそうにしていた翼君に代わって説明したのは狼貴君だった。狼貴君は、その場にずっといたが、黙って私たちの話を聞いていた。
「スマホだ。新歓コンパの時に拡散されたあの画像を頼りに追ってきたのかもしれない」
「えっ!ということは」
「オレも最近、誰かに狙われている気がする」
狼貴君の言葉に警戒が強まる。翼君が襲われた今、狼貴君も誰かに狙われて、今回のようなことが起こる可能性があるということだ。
「狼貴、お前は一体誰に追われている」
九尾の質問に狼貴君は簡潔に答える。
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