フォーエバー・アース

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「フォーエバー・アース……その声はミナだな? いいか、よく聞くんだ。今すぐへ引返せ! 分かるな? オレ達が本来いるべき時間軸へ、すぐに戻るんだ!」  ジンがマイクを掴みながら声を張る。 《戻る? は! 何を言っているの? 我々は『あの衝突体』をしに時間を遡って来たのよ。そう、遥か6600に!》 「馬鹿な真似はよせ……そんな事をしたら歴史がどうなるか、確実な事は誰にも分からないんだぞ!」  手の内側に汗が滲む。 《どうなるか、ですって? 決まってるでしょ。『チクシュルーブ衝突体』が地球に落下しなければ恐竜は絶滅せず、巨大鳥類の時代はのよ? そうなれば哺乳類は台頭せず、我々人類が地上を支配する時代はやって来ないの! そう……この美しい地球を蝕むおぞましい人類という害獣は、この宇宙の歴史から消え去るんだわ! 完全にね!》 「時航型宇宙艦艇を発見! フォーエバー・アースの船だと思われます! 船間距離、約50km!」  ショウが中央モニターを操作して黒い船体を映し出した。 「くそっ、そんな近くに! ステルス塗装とレーダー波シールド……それに照明類を全て消して隠れてやがったか!」  忌々しそうにカイトが毒づく。 《ふふふ……邪魔はさせないわよ。何としても、チクシュルーブ衝突体は破壊してみせる! 紀元前6612万6032年……人類に『星降る夜明け』は来ないのよ!》  ……時間を移動出来る『時航』の技術が確立されたのは、約50年前だ。  とは言っても、映画や漫画みたいに好きな時間へ自在に移動する事は出来なかった。特に『近い未来』に精度良くジャンプする事は極めて難しいのだ。  逆に昔であればあるほど、正確な時間にジャンプが可能という特性を持つ。  この技術は本来、極秘として扱われていたものだ。  何しろ、『過去改変』という危険性を孕むのだから。  『タイムマシンで過去を変えたら、未来はどうなるのか』。それは『親殺しのパラドックス』として古来より語り継がれてきた命題だ。  曰く、『時間がそうはさせない』とか『別の時間軸が新たに始まる』だのその可能性は議論の的でもあった。  或いは『近い未来に辿り着けない』というのも、歴史が『それ』を阻止しようとする力が働くからなのかも知れない。遠い過去の歴史であれば、少々の変更でも歴史が『誤差』として飲み込んでしまうからだ。  が、しかし……。  ジンの妻であり、同じ国際宇宙開発局で働いていたミナはこの科学の大命題に挑戦状を叩きつけたのだ。  『地球の害獣たる人類を地表から根絶する』というを共にするメンバーと『フォーエバー・アース』という団体(テロリスト)を組織して。  彼女たちは国際宇宙開発局の時航型宇宙艦艇を強奪し、この未曾有の大災害を『失敗』に終わらせるべく過去にジャンプしてきたのだ。 「ミナ……聞いているか? 冷静になれ。小さな事なら歴史が『もみ消して』くれるだろう。だが、ここまで大きなイベントが改変されれば、その影響はどうなるのか誰にも分からんのだぞ!」  ……何としても説得しないと。  衝突体破壊の衝撃から逃げられなければ、そのまま6600万年の彼方で宇宙の藻屑と消える過酷な役目を、ジンは「自分の妻の事だから」と買って出たのだ。 《無理ね。例え私達がやって来た未来が結果として『何も変わらなかった』としても、最低限『この世界』では人類の誕生を阻止出来るわ……間違いなくね。我々は、地球の『自浄作用』なのよ!》
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