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ビーッ! ビーッ! ビーッ!
ブリッジに、けたたましいサイレンが鳴り響く。
「16、17区画を緊急遮断! 船内空気圧、0.5%ダウンです!」
ショウが赤く点滅を繰り返すモニターに、顔を強張らせる。
「……撃って来たか! 船を回せ、『腹』を相手の側に向けるな!」
ジンの指示で船は慌ててスラスターを吹き、向きを変えた。
フォーエバー・アースの船もこちらと同じタイプだから、同じように船首には超電磁砲が装備されているのだ。
《……邪魔しないでって、言ったわよね? 次は出力100%で撃つわよ》
ブリッジに、フォーエバー・アースから再びの通信が入る。
「やめろ、今すぐやめるんだ!」
ジンがマイクに向かって絶叫する。
《何を今更……ねぇ、覚えてる?ジン。 あなた、私にプロポーズした時に言ったわよね? 『僕とお前がひとつになるのは、宇宙が決めた運命だ』って。ふふ……確かにそうかもね。だって、私を追い掛けてこんなところに迄来てくれるんだから。……でも、私達は上手く行かなかったわよね? 『宇宙が決めた運命』なんて、所詮はそんなモノなのよ》
「やめるんだ……いいか? お前は経済優先の陰で続く際限のない環境破壊に人類の限界を感じたかも知れん! だが、そうした破壊の実行者が人間であるならば、それにブレーキを掛ける事が出来るのもまた人間だけなんだ! 一握りの悪意を潰すために、大勢の善意を殺すような真似はやめてくれ!」
《……それは違うわ、ジン。何時の時代でも、どれだけ『悪人』を処分しても、まるで地の底から這い出るように『悪』は湧いて出てくるのよ! なら……まるごと処分するしかないでしょ? 人類は『害獣』なんだから》
「フォーエバー・アース、ウラン弾を『チクシュルーブ衝突体』に撃ち込んだ模様です!」
ショウが叫ぶ。
本来なら、ここで間髪入れずにカドミウム弾を撃つべきなのだろうが……船の向きを変えれば、その瞬間を狙ってまたフォーエバー・アースの船から射撃を喰らってしまう。あまりダメージが大きくなると、それこそ宙の藻屑となるだろう。
……思えば、いつもそうだった。
すれ違いを繰り返した、ミナとの結婚生活がジンの頭によぎる。
共に宇宙を目指す者として国際宇宙開発局に勤め、出逢った二人だった。
まるで引力のように、最初から惹かれ合う物を感じていたお互いが結びつくのは必然だったのだろう。
だが、二人には互いの生活、互いの価値観、互いの研究があった。宇宙への強い憧憬が生み出す、抑え難き渇望が互いの存在に勝ったのだ。
ひとつの生活空間を共有し、ひとつの家庭としてまとまるのは最初から無理だったのかも知れない。
形ばかりの結婚生活が破綻するのに、さほど時間は掛からなかった。
……まずい。どうにかして手遅れにならないうちにカドミウム弾を発射しないと!
いや、待てよ? もしや、『今』なら……。
ジンの頭に閃きが湧き上がる。
「船首を『チクシュルーブ衝突体』に向けろ! 超電磁砲は充電するのに時間が掛かって連射は出来ない! それは相手も同じはずなんだ!」
……そうか。だから『牽制弾』は100%で撃たなかったんだ!……『手加減』とかではなく、本命のウラン弾を『チクシュルーブ衝突体』撃ち込むために、エネルギーの消費を最小限にする必要があったから!
「超電磁砲、発射準備完了!」
スラスターの噴射で、再び船体が『チクシュルーブ衝突体』の方に向き直った。もう、その距離はかなりのところまで接近してきている。
多分、これが最初で最後のチャンス……!
「撃てぇぇ!」
号令とともに、船首からオレンジの閃光が迸る。
電磁力で超高速に加速された『弾丸』が『チクシュルーブ衝突体』に穴を穿つ。
「弾丸、命中っ! 衝突体中央部に到達します!」
弾丸の持つ直進エネルギーと秒速10kmを超える衝突体の勢いがぶつかり、その深部に深々とカドミウムが潜り込んでいく。
「やった……か! すぐに船をこの宙域から脱出させろ!」
ジンが大声で指示を出す。
すると……。
「ああ! 見てください!」
観測担当のミナが、急速に遠ざかる『チクシュルーブ衝突体』を指差した。
「まさか……」
全員が息を呑む、その先に。
地球の潮汐力によって『チクシュルーブ衝突体』が前後へ引き伸ばされ、卵のように変形している。
その全身に大きな亀裂が走り、まるで悲鳴を上げるかのように表層から順に欠落が始まった。
「ロッシュ限界か?! こんな遠距離から崩壊が始まるとは……思ったよりウランの過熱が早かったのか! まずい、衝突体が細かく砕かれてしまえば地球の大気で大半が燃え尽きてしまう……!」
《あっはっはっ!》
ブリッジに、勝ち誇ったミナの声が響く。
《私の勝ちね! これで、人類は歴史から消え去るのよ!》
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