★ただの土壌調査だ。

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★ただの土壌調査だ。

 現在の季節は梅雨。川に沿って、紫陽花の花が続いている。 任務で異世界に来た私は、はじめに火の国にいた。火の国と火炎の国はもとから友好関係にあり、火の国の協力を得てからの方が他国ともやり易くなるだろうと思った為だ。しかし、 「少し考えさせて欲しい」 と、言われてしまったのだ。そして色々探ってみた所、とある重臣が渋っている事が分かった。残念ながら何が問題なのかは分かっていない為、仕方なく私は問題の屋敷へと向かっている。 綺麗な青い花を眺めながら、私は溜息をついた。 「部下と連絡が取れない」 相手は早々に口火を切った。 「国境近くの任務だったのだが、向かった日の午後から連絡が取れていない」 ちなみに、それは1週間前の事だと言う。私は出された紅茶を一口飲んだ。 「ちなみに、なんの調査ですか?」 「ただの土壌調査だ」 そう言えば、環境大臣だったな。私は納得する。 環境問題が騒がれている昨今、国境付近の環境調査を行い、自国のクリーンさ・越境汚染の有無を公表していると聞いた事がある。 「隣国の拉致をご心配されているのですか。」 「…少なからずな」 行方不明になっているのは、国から調査を依頼された民間企業の社員5名と、国境付近と言う事で護衛として付いていた騎士2人の計7名。 火の国は比較的周辺国とは友好関係だ。だからと言って、やはり他国。いつ同盟等を反故にするかは分からない。 「国際問題になるかもしれない。この様な状態では、貴女の話には乗れない」 私の任務は、この世界の4ヵ国とアルカナ討伐同盟を結ぶ事。拉致を行った国が入っているかも知れない協力は結べない、と言う事か。  私は7名が行方不明になった場所に来ていた。目の前には樹々が鬱蒼と生えている。調査ポイントが記入された地図を手に、山の中へと足を踏み入れて半日。 「…とりあえず第3ポイントまでは問題なし」 残りは2ヶ所。川の近くか。 見つけた切り株に腰掛け、モグモグとお昼ご飯を食べながら、地図を眺める。おにぎりを包んでいたアルミホイルを丸めると、鞄の中にしまった。さて、行くか。 第4ポイントに到着。観測井戸に近づいて、私はとある事に気付く。 「これって…」 茶色い小瓶が転がっていた。そして地面の色がおかしい。よく見ようとした瞬間、殺気を感じる。 「!」 背後から殴られそうになるのを、振り返らずに右に避けた。そのまま体を反転させて、驚いている相手の襟首を掴む。片足を引っ掛けて敵の体を回し、地面に打ち付けた。得意技の大外刈りである。 一人のしたら、あとから3人ほど武装している奴らが出てきた。手には全員、警棒状の物を持っている。幸いな事に、銃器の類は持っていないようだ。 「拉致する気満々だな」 私も腰にある愛剣を構えた。 本当なら拳銃を抜きたかったのだが、障害物の多さと相手との距離が近過ぎる。この間合いなら、剣の方がいい。 そして私は隙を見て、上流へと駆け上がった。  山道を駆け上がるだけでもなかなか辛いが、その上、水を含んだ腐葉土の様な地面は最悪だった。 後ろを見ると、一人だった。二手に別れたのか。取り敢えずここらで反撃するかと、私は側にあった一本の樹に剣を当てて反転した。 「なにっ!?」 走っていた勢いを殺さず、そのまま敵に向かって突き進む。そしてぶつかる直前に、鳩尾に膝打ちを入れた。敵は呻き声を上げ、後ろに吹っ飛ばされる。ついでに後ろを走っていた仲間にもぶつかって巻き込んだ。御愁傷様です。 止まった私に、チャンスとばかりに左右から同時に飛び出してくる。私は右側に重心をずらし、先の鳩尾に当てた左脚を勢いよく伸ばして、右側の敵の腹を蹴り、左側の攻撃は剣で受けた。 「残り1人」 私はニヤリと笑った。
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