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★なんでお前がいるんだよ、
工場の中を、コソコソと目立たぬように移動する。
現在私はとある工場の中にいた。ちなみに建てられている位置は、測定箇所の第4ポイントと第5ポイントの間。近くに川も流れている。地図には載っていない事から、違法に造られた物だろう。
どうしてこんな所にいるのかと言うと、襲ってきた奴等の持ち物から割り出した。元々第4、5ポイントで川の上流の近くに怪しい建物があるだろうなと思っていた。その為、逃げつつ上流へと向かっていたのだ。そして見つけたのが、現在潜入している工場だった。
入り組んでいる場内を進んでいると、保管庫のような場所に出た。奥にも扉があり、通り抜けられるみたいだ。
瓶に詰目られた、金属光沢がある粉末が大量に置いてある。
近くにあった一番小さい瓶を手に取った時、反対側の扉から少し離れた所から、呻きに似た声が聞こえた。ハッとして近づくと、見覚えのある制服を着た人間2人と、作業着姿が5人縛られていた。こんな所に監禁されていたのか。
「全員意識はあるか?体調に問題がある者は?」
猿轡を取ると、騎士が枯れそうな声で「水を…」と呟いた。一瞬躊躇ったが、私は細心の注意を払ってゆっくりと飲ませる。
「安心しろ。既に火の国の大臣には連絡してある。すぐに増援と救助を送ってもらうよう手配して貰った」
私の言葉に、人質全員が安堵する。しかし、
「哨戒に出た部下が音信不通だと思ったら、お前のしわざね」
驚愕し振り向くと、そこには私とそっくりの銀髪の女が立っていた。相手は不機嫌そうに顔をしかめる。
「久しぶりね、ナギ」
「なんでお前がいるんだよ、風見」
こんな所にいるとは思わなかった。
いや、思いたくなかった。
少なくとも、この場にいて欲しくなかった。こんな場所で会いたくなかった。
「分かってると思うが、【ここで魔法は使うな!】分かってるよな!?」
と言って、ゆっくりと扉に近付く。風見は「そう言いながら、逃げようとするな!」と剣を抜いて走ってくる。流石にここで銃器の類は厳禁と知っていたようだ。
少し安堵した様子の私を見て、さらに風見は激昂する。馬鹿にされたと思ったらしい。そんなつもりはないのだが。
私は風見が追い付く前に、扉から部屋を飛び出した。死に物狂いの、鬼ごっこの始まりだ。
ナギは軽やかな身のこなしで、障害物を避けていく。パルクールと言ったか。地の利はこちらにあった筈なのに、相変わらず逃げ足は早い。そしてついにナギを見失ってしまった。
仕方なく追跡を一時休止し、風見は各所に設置された内線で所長に連絡する。
「侵入者1名。相手は火炎の国の少佐ナギ」
そして館内放送を行うよう指示し、電話を切る。受話器を置いた後、現状に対して舌打ちした。
「ここで魔法が使えないのが辛いわね」
風見は火、水、空気、土の四大元素全てを扱える魔法使いだ。現在、その内の3つが制限されている。
「わざわざ宣誓までして、ムカつく」
先のナギの「使うなよ!」と言う警告。あの場所での危険性を理解してないと思われたのが、甚だしい。しかも能力を使ってまで言ってきた。
「相変わらず、人の気を逆撫でするやつ」
そう呟くと、風見は再び追跡に戻った。
魔法と言うものが存在する。先生によると存在しない世界もあるらしいが、私が行き来出来る世界は全て魔法が存在していた。
そして魔力が強い者ほど、4大元素が扱える。殊に4つ全てを扱える者は、私の知っている限り片手で足りた。その一人が、風見だ。
また4大元素を扱えない魔力が弱い者は、能力者と呼ばれ、限定的ではあるが各自独特な能力を持っていた。
端的に言うと、魔法使いは4大元素のどれかを扱え、能力者は一芸と言う具合だ。
ちなみに私は能力者です。
「風見に見つかったのは痛いが、お陰でこの施設を心置きなく暴れられる」
なにせ風見はアルカナの一員。そう、つまり此処はアルカナの建物の一つなのだ。
そして施設内の構図を発見した私は、とある場所へと向かうのだった。
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