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それからずっと、僕は雛田さんと会うのを楽しみにしていた。 サンプルの使用感を聞いてみたい、というのが第一だけど、なぜか漠然と会いたいと思っていたのも確かだ。 しかし、現実はそう上手くは行かない。 一日、二日……一週間経っても、雛田さんには会えなかったのだ。 同じビルなのに、勤務先が違えばこうも会えないものなのだろうか? 出勤時間はそんなに変わらないはずだ。 昼休みだって、前に出会った時間に公園に降りてみたりしたのに、雛田さんには全く出会えない。 いや、そもそも彼女は本当に存在していたのか?と疑うくらいだ。 そうして、ほとんど諦めかけた十日後のこと。 仕事帰りにエレベーターに乗り込もうとして、雛田さんに会った。 「あっ!お、お久しぶりです」 「どうも、お久しぶりです、上杉さん」 僕は出来るだけ平静を装い挨拶をしたが、心の中では鼓動が煩く鳴っていた。 久しぶりに会った雛田さんは、前とは感じが違っていたのだ。 厚ぼったい前髪はスッキリと整えられ、風通しが良くなっている。 出来ていたニキビも薄く小さくなり、肌の水分量のバランスも良い。 「あ、あの、私の顔、何か変ですか?」 「え……ああっ!すみません、どうもすみません!」 僕は、自分がすごく近い距離で雛田さんを見つめていたことに、ようやく気づいた。
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