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きっと彼女目当ての男も多いのだろうと、並ぶ列を見回すと、男連中は全員雛田さんを見ている。 これはマズイな。 不安な気持ちが一気に押し寄せる。 折角また会えたのに、誰かに先を越されるなんて絶対イヤだ! 「雛田さん!すごく綺麗になったよね!良く言われない?」 「え?あー、あの、自分で言うのもなんですが、最近……綺麗になったね?なんて、多少は……はい」 照れる雛田さんは、辿々しく答えた。 僕としては、それを誰が言ったのかが気になるところだ! 「そ、そうだよねー、彼氏とかが、い、いたりして?」 頼む!そんなのいないと言ってくれ! 僕は心の中で懇願する。 「い、いません!お店のことで手一杯なので!」 良し、良し。 密かに頷くと、今度はちゃんと連絡先を聞こうと意気込んだ。 が、しかし。 その時ちょうどお弁当が完成してしまった。 「お待たせしました!はい、上杉さん!」 「あ……あー。はい、ありがとう」 僕は項垂れながらお弁当を受け取った。 もうここで粘ることは出来ない。 なにせ、すごい行列だ。 話し込んだりしたら、雛田さんにもお客さんにも迷惑がかかる。 仕方なく軽く手を振り、笑顔で会釈する雛田さんと別れた後、会社に戻ってきた。 また、連絡先を聞けなかった。 いや、大丈夫……まだ、チャンスはある! キッチンカーは明日も来る……はず。 僕は一抹の不安を感じた。 一度、失敗しているじゃないか。 連絡先を聞こうと思ったら、次の日、会えなくなったのだ。 また、そうなりはしないか? という気持ちを抱えながら、僕はビニール袋からお弁当を取り出した。 「……え?」 取り出したお弁当の上にあったのは、美しい文字が書かれた名刺サイズの紙。 お店の案内だろうか?と軽く持ち上げて見て、僕は目を見開いた。 そこには、雛田優子という名前と電話番号が記載されている。 こ、これは、雛田さんの連絡先じゃないか! 舞い上がった僕は、ふと紙の裏を見て、寄り一層舞い上がった。 よろしければ連絡下さいね!との一言が添えられていたから……。 ~おわり~
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