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「……え!?」
思わぬ問いかけに、僕はサンプルを落としそうになった。
どう答えたらいいのだろう。
肯定しても否定しても、あまりいい結果にはならないと思う。
でも、言葉を濁すのも違う気がして……。
「あっ、こんなこと答えにくいですよね!?ごめんなさいっ!自分の肌荒れが酷いのわかってるんです!ニキビもまた増えてきちゃって……」
焦って言う彼女を見て、僕もなぜか焦って返した。
「そ、そうなんですか……何が原因なんでしょうね……仕事のストレスとか……あっ!」
なんて余計なことを!
初対面の人のプライベートに踏み込むなんてどうかしてる。
今までこんなことなかったのに。
意外に話しやすかった彼女への安心感がそうさせたのか。
いや、それにしてもあり得ない。
「いえ、別にいいんですよ」
目の前であわてふためく僕を見て、彼女はふんわりと笑った。
「はぁ……すみません……お詫びと言ってはなんですが、サンプル、二週間分差し上げますね」
「ええっ、そんなに?いいんですか?」
「はい!お悩みの肌荒れ、治るといいですね!」
僕は、持っていたサンプルをまとめて彼女に渡した。
その時、間近で見た社員証から、どこの会社の人かを知ったのだ。
彼女は『三星商事』の社員で雛田さんと言うらしい。
三星商事といえば、セラフィム化粧品と同じビルに入っていて、一つ上の階である。
めちゃくちゃ近いじゃないか。
何で今まで知らなかったのだろう……と僕は言葉を失った。
その表情を読んだのか、彼女……雛田さんはクスクスと笑い、首に掛けた社員証を僕の前に掲げた。
「三星商事の雛田です。セラフィム化粧品さんのすぐ上の階なんですよ?」
「そ、そのようですね……あ、僕はセラフィムの上杉と言います!」
「ふふっ。上杉さん、サンプルどうもありがとう。使ってみます!会社も近いですし、 また偶然お会い出来るといいですね!」
「……は、はい!」
雛田さんは、屈託なく微笑みまた少し俯いて、ビルのロビーに入っていった。
その後ろ姿を見つめて僕は「もったいないな……」と呟いた。
あんなにいい笑顔をする雛田さんが、その魅力を存分に発揮できてないなんて。
ニキビや肌荒れだけが俯く原因とは限らないけど、本人は赤の他人に尋ねてしまうほど、気にしているんだ。
僕は、まだ目で彼女を追っていた。
エレベーターの前で、髪を綺麗にカールした女の子の集団に揉まれながら、更に俯く雛田さん。
願わくば、僕の渡したサンプルが、少しでも彼女の助けになりますように。
と、心の中で祈っていた。
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