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そうして、いつの間にか夏が過ぎ、秋の気配が漂う十月半ば。
会社ビル近くの公園に、美味しいお弁当を売るキッチンカーが来るようになった。
最初は社内の女性達の間で噂になり、その内男連中も群がって、あっという間に大評判になっていた。
僕も例に漏れず、会社の先輩達と噂のキッチンカーにお弁当を買いに行ったのだが……。
なんとそこで、思わぬ人に出会った。
「ひ、雛田さん!?何で!?」
「あ、上杉さん、どうも!お久しぶりですね!」
雛田さんは、キッチンカーの中でお弁当を作っていた。
驚いたのはそれだけじゃない。
彼女の肌荒れはすっかり解消され、邪魔そうだった前髪はピンで額の上に止められている。
艶やかな肌には、ニキビなんて一つもなかった。
「一体どうしてお弁当を作ってるの!?」
僕はお弁当が出来るのを待ちながら、雛田さんに問いかけた。
「我慢せずやりたいことをやろうと思って!」
「え、それって……」
あの夜、ビストロで僕が言った青臭いセリフ。
まさかそれを実行したと?
「上杉さんに背中を押されて、決意したんです!私、実は料理が好きで、店を出すのが夢だったんですよ」
「そうだったんだ!じゃあ、叶ったね!」
「はいっ!夢も叶って、お肌も潤って……全部上杉さんのお陰ですね!内緒で卵焼きサービスしときますね?」
そう言って、僕の耳元に顔を近づけてきた雛田さんは、本当に綺麗になっていた。
その上、表情も何もかもが明るくなってとても魅力的だ。
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