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「百鬼夜行が見たい!」
授業が終わりを告げ、部活動に励む時間。
長い廊下を奥まで進んでいくと、突きあたりには、"不可思議事象研究部"とプレートがかかった教室がある。
いつものように部室を訪れた小桜を迎えたのは、そんな部長の声だった。
「頭でも打ったんですか、部長」
「小桜くん! 我が部のモットーを言ってみたまえ!」
「解明されていない不可思議な事象を研究し、追い求めることです」
「そのとおり! つまり、百鬼夜行だ!」
小桜は部長の燦然と輝く目を見て冷静に思った。
ああ、部長のお決まりの長台詞がくる、と。
「僕は存在しているのかわからない不明瞭な者たちに対して、憧れを抱いている!
世の中で起こっている不可思議な現象に、彼らも関わっていることがあるのではないか?
それを見つけたい! 解明したい! その手始めに……」
今日は冒頭で「百鬼夜行が見たい!」と言っていたので、おそらくこのあと、
「僕は百鬼夜行を見に行こうと思う!」などと付け加えるに違いないと小桜は予想した。
「僕は百鬼夜行を見に行こうと思う!」
小桜の予想は、一字一句当たった。
「見ようと思って見れるものではないんですから、そんな花火を見に行く感覚で
たいそうなことを宣言されても困るのですが」
「わかっているよ、小桜くん。でも大丈夫! 今回は強力な助っ人がいるんだ!」
「……助っ人ですか」
「そうだよ、最強の助っ人さ! あ、でも人じゃないんだよ」
部長の言葉が一気にうさんくさく感じられて、小桜は顔をしかめた。
「本当に大丈夫なんですか?」
「もちろん! なんてったって、僕らの助っ人は、お星さまなんだから!」
想像以上に、大丈夫ではなかった。
「部長……本当に頭を打ったんですか」
「打つわけないよ、僕は部長なんだから!」
「それは関係ないと思いますけど」
「小桜くん、君のその目を見るかぎり、お星さまの力を信じていないね?」
「どういう意味ですか?」
「流れ星に願い事をすると叶うっていうでしょ?
だから百鬼夜行が見たいって願えば叶うんだよ!」
「それはつまり、百鬼夜行の前に流れ星を見つけなければならない、ということですか」
「安心して、今日は流星群が見られるそうなんだ!
だから小桜くん、不可思議事象研究部は今夜、屋上に集合だ!」
「といっても、部員は私と部長の二人しかいないわけですが」
「今夜増えるよ! 百鬼夜行からヘッドハンティングするんだ!」
「どういう状況なんですか、それ」
まだ明るい空を眺めだした部長に、小桜は冷静に思った。
屋上、閉鎖されてなかったっけ、と。
そう考えてすぐに、ああそうか、と納得したのは、部長の父親がこの学校の理事長をしていて、なにかと都合をつけてもらえることを思いだしたからだった。
ちなみに、部員数が極小のこの部活が創設できたのも、何不自由なく活動できているのも、七光りの成せる業だ。
部長曰く、
「せっかく親の七光りがあるんだから、利用しないのはもったいない!」
とのことらしい。
なんとも神経が図太いが、ここまで開き直っていると、逆に清々しいと小桜は思っていた。
部長のこの様子からして、すでに屋上の鍵は入手済みなのだろう、雀を見つけて喜びに飛び跳ねた部長のポッケの中から、チャリン、と金属の音がした。
それにしても、部長ときたら学校の屋上で百鬼夜行を見るつもりらしいが、そもそもこんなところに妖怪の群れが現れるのだろうか。
小桜があれこれ思案していると、飛んでいった雀に声をかけて見送っていた部長が、ふいにこっちを振り返った。
「あ、ほらほら小桜くん! 今度は別の雀がきたよ!」
「雀は今日の活動内容とは関係ないと思いますが」
「夜まで時間があるから、それまで自由時間にしよう!」
「仮眠をとってもいいですか」
今日の部活動時間はとても長くなりそうだ、と小桜は思った。
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