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パパとの別れ
パパは私を見て、驚きとも、懐かしさとも混ざった不思議な表情をした。
「やはり、雅がお気に入りのバーだったのね」
私の勘も相当すごいものだと、自画自賛したい気分だった。パパはスエットの上下で炬燵に入っていた。さっきまで眠っていたのだろうか、顔の左半分に布団の後がついている。しかし、栗栖さんが相手とは。
栗栖さんが気を利かせて、隣の部屋に消えていくと、パパが私に話しかけた。
「パパなあ、好きな人ができた。今度は本物」
栗栖さんは、間違いなくパパの好みだった。
「パパ、働いているの、それとも、ヒモなの」
パパは更に頭を掻いて、「現状、ヒモです」と答えた。
「ママのところには帰らないの。今だと、ギリギリ、戻れると思う」
パパは首を振った。
「いや、クリちゃんといると、とても気が楽で、ずっと離れたくない」
クリちゃんという言葉にドキッとした。
「それは、じっくり考えた結論なのね」
私が尋ねると、パパは、「当たり前だよ。真剣だ」
と答えた。お互い大人なので、私が口を挟む事はない。決定するのは二人だ。私は、別室にいる栗栖さんに聞こえるように、「本当にパパでいいの」
と尋ねた。
別室から、
「私も清水さんを愛しています」
と栗栖さんの声。私はパパをじっと見つめると、
「栗栖さんを悲しませるようなことをしちゃあ、ダメだからね」
と言った。
パパはその問いには答えず、
「百合は彼氏とか、いないのか」
と言った。
「あんたみたいな父親を見ていて、彼氏を作る気になると思う」
私の答えを聞いて、パパは、困った顔をして、それから体を小さくした。
「周りの人の迷惑を考えた方がいいよ」
と言いかけると、
「違う、これで損ばかりしている。サラリーマンして貯めたお金もママに渡した。すっからかんのヒモや。でも、楽しいけど」
とパパが割り込んだ。
「楽しいのが一番ね。栗栖さんと結婚するなら、ママと話をしないと、重婚よ」
「結婚か、どうしよう」
パパは部屋に戻ってきた来栖さんに話しかけた。
「私、バーテンも見習いだし、まだ、お試し状況でいいです」
と答えが返ってきた。
「試されてるのは俺だけど」
笑いごとじゃない。
「ねえ、いつから私がこの男の娘だと気づいていた」
私は、栗栖さんに尋ねた。
「最初に山田さんと来た時、気付きました。顔や雰囲気が似ていますし、お父様譲りのモテで、いろんな男の人に声をかけられていました」
と栗栖さんは笑った。
「ねえ、栗栖さん、絶対、あんたも苦労するよ、それでもいいの」
「いいんです」
リスのような愛くるしい顔で笑った。その顔を見ると、これ以上、話す事がなくなったが、再度、
「こいつ、絶対に女を作るから、ずっと監視していないとダメよ」
と念押しをした。
「ご忠告ありがとうございます。ちゃんとこの人を愛していますから」
栗栖さんの言葉は力強かったが、愛情があるから男をつなぎとめれるものでは無い。
パパの横にショートパンツ姿で座っている栗栖さんを見ていると、美由紀さんと抱き合った事を思い出した。どうして、私は、パパの好きな女性を好きになってしまうのだろう。
それから他愛のない話をしていたら、夜が明けた。私はパパがいない時に、栗栖さんの連絡先をゲットした。朝になり、私はふたりに言った。
「栗栖さん、パパ、また、会いに来ていいかな」
私の言葉の意味を知らず、ふたりは笑って、
「いいよ、いつでも会いに来て」
と答えた。
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