ファミレス

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ファミレス

六月の第三日曜日、父の日、家族でファミレスに出かけた。四人掛けのボックス席で、オムライスを食べる私の正面ににはママが座り、その横にはパパがいる。ママはミラノドリア、パパはハンバーグ定食、お決まりのメニューだった。 「いい歳なのに、そんな脂っぽいもの食べるの」  ママはパパに言った。 「肉を食わないと元気が出ないって」  パパはフォークで刺した肉を、大きく開けた口に入れた。  パパとママは同い年だけれど、ママの方が落ち着いて見える。ずっと家にいるからかもしれない。今日も、Tシャツにレギンスに古びたカーディガン姿、お化粧もしていない、バレーシューズみたいな履物が貧乏くさい。  一方、パパを見ると、黒のポロシャツに、ジーンズとスニーカー、こざっぱりしたファッションが、長身で日に焼けた肌にマッチして、爽やかな印象だった。  どうして、パパがママと結婚したのか、パパに聞いたら、ママは若い頃、すごく可愛かったし、すごい積極的だったと教えてくれた。  私たちは、今度の三連休の旅行の話をしていた。私の希望で温泉に行こうと決まりかけた時に、 「学校のテスト、いい点だったのよ」 と、ママが話題を変えた。  私の話ばかりでうんざりした。三連休。私じゃなくて、ママが温泉に行きたいのよね。 「算数で九十五点をとったのよ」  私は話題に合わせて言葉を変えた。パパは、ママからもらった趣味の悪いネクタイを片手に持って言った。 「僕だけ、こんないいプレゼントをもらうのは悪いし、百合にも、ご褒美、買ってあげないと」    パパの言葉に、ママは気分がよさそうだった。パパはママの手を握り、ママも少女っぽく照れたような顔をした。変な昼ドラを見ているような気分だった。絶対、パパはあのネクタイを着けないはず。少しバカらしくなって、握っているスマホのラインのメッセージを確認しようと思った時、 「清水マネージャ」 という少し憂いを秘めた女の人の声が、私の背後から聞こえた。  パパの名前を呼ぶ声。大きな声ではないが、周りに響く印象的な声だった。
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