1.生贄の村

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1.生贄の村

「てめぇら、覚えてろよ!」 俺は叫んだ。叫んで暴れた。 でもめちゃくちゃ暴れようが叫ぼうが、身体を縛り上げ食い込む縄はビクともしない。 それどころか、いっそう痛く苦しくて潰れたカエルみてぇな声が出た。 「生贄(いけにえ)は大人しくしろ!」 でかい鳥かごに茣蓙(ござ)を掛けたような駕籠(かご)で、俺は運ばれている。 んでもって、それを担いでる奴らの一人が怒鳴りつけてきやがった。 「生贄じゃねーよっ、クソッタレ!」 ようやくの事で怒鳴り返すが、忌々しい笑い声が響くだけだ。 「くそっ」 悪態をついて、すぐため息をつく。 ……俺。弥彦(やひこ)は今年で歳の頃は十六。この吊姫(つるべ)村の男だ。 この村では数年に一度、若い女を近くの山の神に捧げる習わしがある。 その年十六歳になる『美少女』を山の中の祠に捧げよ、とのことだ。 それが今年。 当然、それっぽい年齢の女を差し出した。美少女かと言えば、若干首をかしげるレベルの女だったけど。 「あー。オッパイはデカかったなぁ」 思わず独り言を呟くくらい、ほんとに見事だったぜ。 いくら顔はビミョーでも、ソコさえデカけりゃ万事解決! そう村長や村の男たちが決断して、儀式は始まった。 ちなみにすぐ生贄を山に、運ぶわけじゃない。 女の身体を清め、祝詞をあげて宴会をする。 山の神の元に嫁ぐっていう体裁だからさ。現世での最後の宴ってやつ。 一応、生贄の女には村の誇りだとか名誉だとか。選ばれた、とかいうんだけどよ。 実際は押しつけあいの、恨みつらみの結果。 それでも生贄を出した家は後数年は、村の連中に援助してもらえるしな。だからさほど確執も表沙汰にならなかったんだが。 あー。話がズレた。 「お前も災難だったなぁ」 籠の外からの、からかうように投げかけられた言葉には舌打ちで返す。 本当に災難だぜ。もはや人災と言ってもいい。
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