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2020年7月15日
朝は雨は降っていなかった。
仕事帰りに降ってきた。
朝ごはんを買うとき、コンビニで一番くじがあった。
なのでそれを買ったら……
アニメのストラップだった。
俺はこのアニメを知らない。
でも、なんとなくクジがしたかったんだ。
あー、でもな、クソ。
仕事休めばよかった。
雨の日は頭が痛い。
身体が痛い。
痛くないのはどこだ?って探しても見つからない。
昨日の野球ボールをぶつけた子供の親から電話があった。
仕事中に……
いや、もうどうでもいいよ。
本当に、どうでもいい。
治療費は病院が出してくれた。
だからもういいのに。
仕事中は止めて欲しい。
母子家庭らしい。
声も可愛かった。
だからといっても何も出来ない。
下手すると死んでいたかもしれない。
でもどうでもいい。
俺が死んでも悲しい人なんていない。
恋愛フラグもない。
今日も歩こう。
そう思って病院の前に立つと足が止まる。
空を見上げた。
なにもない。
「はぁ……」
ため息交じりにもういちど空を見上げる。
なにもない。
そして視線を戻す。
「あの……」
女性が俺の前に現れる。
俺はその声に聞き覚えがあった。
「なんでしょう?」
「昨日は息子が申し訳ありませんでした」
その女性は今にも泣きそうな声でそういった。
「ん?」
「光元 元気(みつもと げんき)の母親の光元 陽(みつもと みなみ)です」
「えっと?」
なんとなくわかった。
「昨日の野球ボールの……」
「あー、はい。
気にしなくていいですよ。
ほら、俺はこんなに元気!」
俺は小さく笑った。
笑いごとじゃないけど。
「すみません、すみません、すみません」
陽さんは何度も謝った。
陽さんはとても可愛らしい人だ。
正直タイプかもしれない。
だから、なんだっていうんだ。
「気にしなくていいですよ」
「なんでもします」
「え?」
俺は驚く。
なんでも?
ならエロいことでもしてもらおうか。
そう思った。
でも、視線の奥には陽さんを心配そうに見る子供の姿が見えた。
俺は愚かだ。
きっとその子供は陽さんの息子の元気くんだろう。
でも、筋は通さないと。
「お願いします、なんでもしますので許してください」
「じゃ、子供に合わせて」
「え?」
陽さんの表情が凍る。
「なんでもするんでしょ?」
「私がなんでもします。なので子供には……」
陽さんは涙をボロボロと流している。
すると子供が駆け寄ってくる。
「お母さんを泣かさないで!」
子供もボロボロと涙を流す。
「えっと」
なんだ?これは俺が悪いのかな。
でも……
「お母さんを泣かさないで!」
「君が、元気くんかな?」
元気くんが号泣しながら頷く。
「そうです」
「君は人にボールをぶつけた」
「はい」
「だったらしなきゃいけないことあるよね?」
「お金だったら働けるようになったら働きます」
「そうじゃないでしょ?」
「え?」
「ごめんなさいでしょ?」
元気くんと陽さんがキョトンとしている。
「謝罪なら私が……」
陽さんがそういって元気くんを抱きしめる。
「いや、そうじゃない。
悪いことをしたのなら悪いことをした人が謝らないと」
「え……」
陽さんが言葉を詰まらせる。
でも元気くんには迷いがない。
「すみませんでした」
元気くんはそういって頭を下げた。
「よし、いい子だ、これをあげよう」
俺はそう言ってアニメのストラップをあげた。
なんか知らないけど元気くんは喜んでいる。
それだけでもう俺はお腹いっぱいになれた。
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