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第1話
今日も彼は、だれかがシェアしたどうでもいい記事を読んでいた。たった今もせっせと、ともだちがシェアした記事を、さらにシェアしていた。
〈次のフェーズに行くためにも、こういう学びを大切にしていきたいよね〉
といったコメントをそえるのも、けっして忘れない。暇さえあれば、いや、なくても、毎日、毎時間、毎分、毎秒、つねにスマホをチェックし、そんなことを繰り返している。実のところ、依存症にちかい状態だが、本人はそうとは、気づいていない。いざとなれば、自分の意思でいつでも、すぐにスマホからはなれられると思っている。
彼の年は、二十か三十くらいだろうか。いや、最近は中年になっても幼くみえる人は多い。もしかすると四十くらいかもしれない。ともかく、ぱっと見の雰囲気は、若者といった感じ。とりあえず毎日、普通に働いてはいる。とはいえ、自分にはもっとなにかすごいことができるはずだと、心のどこかでずっと思っている。ようするに、よくみかける若者だ。
そうしているうちにまた、彼のタイムラインに、いけすかないともだちの最新投稿が表示された。
今度のは、あざやかでおしつけがましい色の背景に、大きな文字で
〈まだ発表はできないんだけど、すごいことを企画中!今からたのしみでしかたがない〉
とだけ書かれている。
投稿は文字のみで画像はないが、どうだといわんばかりの自慢げなともだちの顔が頭にうかんだ。若者は、しぶい顔をした。
「こういうのにかぎって、本当にすごかったためしがないんだよな。どいつもこいつも大したこともしてないくせに、言うことばかりでかくてさ。そんなことじゃ、結果なんてついてこないってわかってんのかな」
そうぶつぶつと一人つぶやきながら、とりあえずいいねを押し、画面をさらにスライドさせた。
すると今度は、また別のともだちの投稿が目にはいる。
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