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部屋の中に武器として利用出来る物が無いか確認していくが、斧に対抗できる物はどこにも無い。私が右往左往している間にメアリーは部屋の前に辿り着いたようだ。
メアリーはドアに向かって斧を叩き下ろし始めた。木製の扉はすぐに割れ砕け、その隙間からメアリーの狂った顔が半分見える。
「I'll see you soon《すぐに会えるからね》」
メアリーはそう言って微笑んだ後、再び斧を振り始めた。
私は窓を開き、地面を見下ろす。飛べない高さでは無い。足は痛めるかもしれないが、コンクリートじゃないので骨折まではしないだろう。
オリバーは今もサキの屍体を弄んでいるのだろうか。ここでジッとしていたら、きっと私も同じ運命を辿る事になる。
私は窓枠に足を掛けて立ち上がり、一気に飛び降りた。足裏に衝撃が走るが、思っていたほどの痛みは無かった。
太腿を叩いて立ち上がり、太い木々に囲まれた細道を掛けていく。昼間は絵本のような森も、夜は奇怪としか表現出来ない。今の状況がそう見せているだけかもしれないが、木が追いかけてくるような圧迫感に襲われる。
このまま真っ直ぐ進めば道路に出られる。道路に出たらヒッチハイクをして逃げるしかない。車に乗る事が出来ればこっちのもんだ。
車の走る音が聞こえてきた。良かった。助かる。あと5分飛び降りるのが遅ければ、私はあの部屋でメアリーに殺されていただろう。
「help!《助けて!》」と叫びながら道路に飛び込む寸前、腕を勢いよく掴まれて森に引き戻される。
振り返ると、上半身裸のオリバーと斧を手にしたメアリーが笑っていた。
「You see me again《ほら、また会えた》」とメアリーが笑う。
「I wish I had been 5 minutes early《あと5分早ければ良かったのに》」と、オリバーはサキの部屋で言った言葉を再度口にする。
それは、あと5分早ければ私が生きて逃げる事が出来たよと言いたいのだろうか。それとも、あと5分早ければ私との鬼ごっこをもっと楽しめたのにと言いたいのだろうか。
身体を引きづられながら考えてみるが、答えは出ない。
ただ一つハッキリしているのは、あと5分後に私の命は消えているという事だけだ。
end
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