百貨店の戸崎さん

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百貨店の戸崎さん

 僕の通っている学校で怖い噂が流れている。その噂は瞬く間に広がり、他校の生徒も口にするようになっていた。  この地域に住んでる人間なら一度は訪れた事のある百貨店、武丸屋(たけまるや)。市内で行方不明になる人間が出る度、武丸屋の戸崎(とざき)さんに連れて行かれたという噂が耳に入るようになる。  戸崎さんは、閉店した武丸屋の紳士服売り場に現れる幽霊で、二十二時から二十三時の間に武丸屋の四階を徘徊しているらしい。  戸崎さんに見つかるとあの世へ連れて行かれるというのが、この学校の怖い噂だ。  そして今日も、クラスはその噂で持ちきりだった。 「隣のクラスの保田(やすだ)って女子、二週間くらい前から行方不明らしいで。絶対、戸崎さんに連れて行かれたんやわ。健太(けんた)はどう思う?」  クラスで唯一同じ水泳部の池内康徳(いけうちやすのり)がニヤニヤしながら話し掛けてくる。 「俺はなんでも戸崎さんのせいにするのもどうかと思うけどな。あの噂、嘘くさいから信用でけへんし。あの世に連れて行かれるなんて、ガキくらいしか怖がらへんやろ」  俺が頬杖をつきながらそう言うと、康徳は不満げに眉を顰め、ある提案を持ちかけて来た。 「ほんならさ、今晩武丸屋に忍び込んで動画撮ろうや。お前、動画キャスのID持ってるんやろ?」
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