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それから数時間後、俺たちは武丸屋のトイレの個室に居た。
一番混雑している時間のせいか、多くの客がトイレに出入りしている。
俺と康徳は息を潜め、店内が閑散とする時間を待ち続けた。
「閉店まであと十五分やな……」
トイレに誰も居なくなったことを確認した康徳が呟く。
「せやな。あー、なんか緊張してきた! もうキャスの告知してもうたから後戻り出来んぞ」
「健太、緊張したらいつも出来ている事も出来んようになるから落ち着け。とりあえず、完全に閉店したらこの個室扉は開いて裏側に隠れるんや。閉店した後にこの扉閉まってたら潜んでるのモロバレやからな。警備員が個室を一つ一つ確認して回らん事を願って戸崎さんが現れる時間までジッとしとくんや」
頭の中で閉店後のシミュレーションをしている間に、閉店十分前を告げる店内放送が流れ始めた。
俺はその間にSNSで動画キャスの最終告知をする。タイトルは、【噂の戸崎さんに会いに行きます】。
告知文を打っている時、あることに気づいて指が止まる。
「これさ、キャス見てる誰かが通報する可能性ってあるよな? ってかもう既に通報されてる可能性もないか?」
「そりゃあるな。なんやねんお前、そのリスクも考えた上で俺の提案をオッケーしたんかと思ってたわ。まぁ、動画キャスは匿名やろ? 忍び込む系の動画って他でも観た事あるし、大丈夫やって」
相変わらずあっけらかんとした様子で告げる康徳に思わず怒鳴り声を上げそうになるが、必死に堪える。
既に告知も侵入もしている状態ではどうしようもない。動画キャスでフォロワーが増えても、いずれ学校や親にはバレるだろう。
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