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俺は大きな溜息を吐きながら、「捕まったらお前も同罪やからな」と言って康徳を睨む。
康徳は「わかってるって」と言いながら俺の肩を揉んでから扉を開き、扉の内側に俺を誘導した。
閉店時間から三十分が過ぎ、外から聞こえていた店員や客の話し声はピッタリと止んだ。戸崎さんが現れるという時間まで残り一時間半。俺と康徳は一切喋ることなく、スマートフォンの時計だけを見続けた。
二十一時を回った頃、コツコツという革靴を鳴らす音が近づいてきた。その音はトイレの前で止まる。
警備員だ。
警備員は機嫌がいいのか、鼻唄を唄いながらトイレ内にライトの光を向けた。警備員は中に入ってくる様子は無く、すぐに踵を返して戻って行った。
足音が完全になくなるのに合わせ、俺と康徳の口から安堵の溜息が漏れる。
スマートフォンをタップしてSNSを開くと、告知していた動画キャスの話題が拡散されていた。今までに無い拡散数だ。この調子なら、確かに俺のフォロワーは五倍から十倍にはなるだろう。
そして二十二時。俺と康徳はトイレから出て目的の紳士服売り場へ向かった。
店内の照明は既に落ちていて、店員の姿はもちろん何処にも無い。
廊下を五十メートル程進むと紳士服売り場が見えてくる。俺と康徳は顔を見合わせ、監視カメラの位置を気にしながら腰を低くした。
一気に駆け抜ければ見つからないはず。
そう思った俺達は一気に駆け出し、紳士服売り場の奥にある試着室へ入ってカーテンを閉めた。
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