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しかし、気づかないでくれという願いも叶わず、警備員の足音は試着室の前でピタッと止まった。
バレた。終わりだ。そう思って俺達は目をギュッと閉じて身構えるが、カーテンは開かない。
五分、十分経過しても警備員がカーテンを開かない事を不思議に思った俺と康徳は、顔を見合わせて首を傾げる。
革靴の音はカーテンの前から去っては居ない。警備員が居るのは間違いない。
もしかしたら警備員は俺達が反省して自ら出て来るのを待っているのだろうか。そうとしか考えられない。
覚悟を決めよう。
俺はまるで今から死ににいくような表情を康徳に向け、カーテンをスッと開いた。恐る恐る顔を出す。
ライトを照らされて怒鳴られる。そう思っていたのに、試着室の前に警備員は立っていなかった。キャスを配信する時と全く同じ暗い店内が広がっているだけだ。
この静けさの中、足音を立てずに去るのは不可能のはず。そう思った直後、今までに感じた事の無い悪寒が背筋を駆け抜けた。
俺の後ろで康徳も震えている。
俺は即座に動画キャスを立ち上げ、【さっきのは警備員じゃなかった。戸崎さんだ】と書きこむ。
リスナーは半分くらい残っていたものの、俺の書き込みを嘘だと思ったのか一気に減少した。
【絶対やらせじゃん】
【うさんくせー】
【はいはい、お疲れさん】
リスナーはそんな書き込みを残して消えていく。最終的に閲覧者の数は一人だけになった。
「仕方ないって。配信した状態でカバンに入れっぱなしだったお前が悪い。キャスは閉じて早くここから離れようや」
康徳が震える声でそう呟く。
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