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帰宅して母に見せると母は特に驚く様子もなく、「あぁ、もうすんな季節なのね」と呟いた。僕からその不思議な野菜と白菜や水菜を受け取った母は、鼻唄を唄いながら台所へ戻って行く。
それから半時間後、ダイニングテーブルに置いてあるカセットコンロの上にグツグツに煮えたぎった鍋が乗せられた。
その鍋の中には、例の野菜も浮かんでいる。細かく刻まれてはいるが、グロテスクさは変わらない。
それはまるで腐りかけの死体のような色をしていて、明らかに食べ物ではない臭いを放っていた。
「これ、マジで食べるつもり?」
「もちろん! コレ、お肌にいいんだから……」
うっとりした表情で椅子に腰を下ろした母は、躊躇することなくその野菜を箸で摘まんで口に放り込んだ。
「少し癖があるけど、食べ始めたら病みつきよ」
そう言って母は僕の取り皿にその野菜を盛る。
箸を取る気にならない僕は母にしつこく質問する。
「ところでさ、この野菜ってなんて名前なの?」
平然を装って質問すると、母はそんなことも知らないのかと言った口調で言葉を返してきた。
「ミルエハラカトヒーよ」
「なんだよその横文字。外国の野菜?」
「外国の野菜が無人販売所で買えるわけないでしょー」
母は馬鹿にした口調でそう告げ、取り皿のスープをズズズと飲み干した。
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