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俺は尻もちをつき、失禁した。どうやら限界を超えた恐怖は完全に身体の自由を奪うようだ。
放心状態で天井を見つめる事数分、遠くから革靴の音が近づくのに合わせてマネキンの首は口を開くのをピタッと止めた。
戸崎さんがやってきた。戸崎さんに殺される。
そう思った俺はガクガク震える足を叩き、陳列棚に手を掛けて立ち上がった。
「康徳! 逃げるぞ!」
声が出た事に安堵するものの、視線の先に康徳はいない。カーテンは豪快に開いているが、康徳だけが忽然と姿を消している。
康徳は馬鹿で空気も読めないが、友達を見捨てて逃げ出すような人間じゃない。
全部、戸崎さんのせいだ。
容赦なく近づく革靴の音。
俺も消される。
そう思った直後、俺の顔にライトの光が照らされた。
「おい、お前! 何をやっている!」
それは、戸崎さんではなく警備員だった。
警備員は床に転がるマネキンの首と俺を交互にライトで照らしながら、「話は警備室で聞かせてもらう」と言って俺の腕をグッと掴んだ。
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