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私は前のめりに転びそうになりながら、這うように階段を上っていく。ダイニングルームには相変わらずオリバーとメアリーの姿は無い。
警察への電話も試みたが、電話番号も分からなければ中途半端な英語で伝えられる気がしない。そもそも、この家の住所さえ分からないのだから。
地下室を見ていないフリをして部屋に戻っても、ミキコのように殺されるのは時間の問題だ。一分一秒でも早くこの家から出ないといけない。あんな死に方するくらいなら、熊に食べられた方がマシだ。
私は周囲を警戒しながら玄関へ向かっていく。息を殺して忍足で進んでいると背後から声を掛けられた。
「Are you homesick?《あなたもホームシックなの?》」
振り返ると、満面の笑みのメアリーさんが立っていた。こんな笑顔をする人が殺人鬼な訳無いと思いたいが、数分前に見た死体は明らかにミキコのものだった。
私は「It's okay《大丈夫》」と言って首を振り、「good night《おやすみなさい》」と言葉を続けた。
しかしその時、メアリーは私の股の間からポタポタと落ちている尿に気づいた。
「Did you have a scary dream?《怖い夢でも見たの?》」
メアリーはその言葉を言った直後、人が変わったように無表情になる。そして、目を血走らせて私に掴み掛かろうとした。
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