I wish I had been 5 minutes early

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 玄関の鍵を開錠している暇は無い。すぐに走り出さないと殺されると思った私は長い廊下を駆け抜け、メアリーから距離を取る。  しかしメアリーは、余裕の笑みを浮かべながら走るのを止め、ダイニングルームに向かった。地下室の壁に掛かっていた凶器を取りに行ったのだろう。  今のうちにサキへ伝えないとと思った私は、階段を駆け上がってサキが眠っている部屋をノックする。しかし、中から応答は無い。  熟睡しているのだろうかと扉を少し開くと、ベッドの上に巨大な背中が見えた。  オリバーだ。オリバーが全裸でサキの上に乗っている。視界に映るのはオリバーの背中だけで、サキが生きているかどうか分からない。いや、足が曲がらない方向に曲がっているのを見ると、既に死んでいるのだろう。  ドアノブに手をかけたまま固まっていると、オリバーはゆっくりと振り向き、「I wish I had been 5 minutes early《あと5分早ければ良かったのに》」と呟いた。  あと5分早ければサキは生きていたという事だろうか。それとも、サキより先に私を殺せたのにという事だろうか。どちらにしても、今この洋館に居るのは殺人鬼二人と私だけだ。  勢いよく扉を閉め階段に向かうが、斧を手にしたメアリーの姿が視界に入り足を止める。 「Don't kill《殺さないで!》」と叫んでみるが、二人は何も言葉を発さない。今の二人にとって、私は留学生では無く、逃げ惑う食糧でしか無いのだろう。 「お母さん……お母さぁぁぁん!」  私は泣き叫びながら自分の部屋に入り、扉の前にベッドやロッキングチェアを移動させる。開けられるのも時間の問題だとは思うが、何もせずに殺される訳にはいかない。
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