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 スマホに繋いだイヤホンから、男性二人の談笑が流れてくる。山の中で、唯一チャンネルの周波が合ったラジオ番組。傾聴(けいちょう)に値するような面白みはない、そう思いながらも聞き続けるのは、このうだるような暑さから、少しでも気を逸らしたいから。  2020年8月21日。気温41.3度。今日、埼玉県熊谷市で、日本の歴代最高気温が更新された。2018年7月23日から、実に2年ぶりのことである。 『毎年、どんどん暑くなってきてますよね』 『ね。ここ数年、酷い台風とか多いし、異常気象っていうの? 怖いなぁ、温暖化』 『何かしてます? 温暖化対策』 『俺はね、最近、電気自動車に変えたよ。CO2削減に協力してるってわけ。そういう君は何かしてるの?』 『いやぁ、なかなか。あ、ペットボトルはなるべくリサイクルに出すようにしてるっす』 『それ、温暖化対策になてんの?』 『えー、たぶん?』  温室効果ガス削減について参加国で取り決めがなされた、2015年のパリ協定。その会議で、ある研究者が助言した。 『2020年までに温室効果ガスの排出量が減少に転じないと、地球に未来はない』  研究者たちが警鐘(けいしょう)を鳴らす中、各国の政府の対応といったらどうだろう。一応打ち出す政策はどれも具体性がなくふわふわとしている。危機感が薄い。だから、国民の意識も薄い。温暖化は、絵本の中の物語くらいに思っている。  誰も、あてにならない。  ――――それにしても、暑すぎる。  (あご)に流れ落ちる汗をぬぐう。行く先の景色が、陽炎(かげろう)のせいで現実感なく揺らめいている。自分の背ほどの大きさがある重いリュックサックを背負いなおすと、金属が(こす)れる高い音が(せみ)の声と共鳴して、森の中に響いた。乾いて固くなった地面を踏みしめ、夏子はまた一歩山を登る。
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