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丸山さんが地面に開けたまま置いてある私の鞄を指さした。
「ところで亜紀先生、これ水何本入れてるの?ぱっと見10本はあるけど、ガチゴーリキーじゃないの?」
「水筒の水が無くなった子用です。熱中症が一番怖いですからね。ちなみにお握りも10個、タオルが5個、子供用着替えに、救急箱、ロープ、その他色々入ってますから」
私は何故だか一つ一つだして丸山さんに見せると丸山さんは「すごっ」と言った。
「私ちゃんとしてなきゃいけない病にかかってるんで、もしもを考えすぎて用意しないと気が済まないんです。
ちなみに普段持ち歩いてる鞄にも印鑑とか傘とか着替えとか諸々入ってますから」
そう言うと彼は吹き出した。
「じゃあ今日いきなり俺に結婚してくれって言われても直ぐに婚姻届書けるな」とふざけたので、「そうですね、電撃婚できちゃいますね」と調子を合わせた。
丸山さんはスポーツドリンクを一口飲むと、今度は優しい口調で喋りだした。
「亜紀先生、俺も神経質だから、気持ちは凄くわかるよ。でも、せめて登山の荷物くらいみんなで持てばいいのに」
と丸山さんが子供と楽しそうに談笑している校長先生を見た。
「校長先生今年で定年なんです。おまけに先週ぎっくり腰やったばかりなんです。だからわかりますよね?」
私は丸山さんの目を見てゆっくり話した。
「あーそういうことか、校長先生に持たすと」それだけ言うと丸山さんが私の目を見た、悪口を一緒に言ってほしいようだ。
だから私は敢えて言わない。
丸山さんが「逆に邪魔」と言い少しの間の後に小さな声で「丸山さんそんなひどいこと言わないでくださいよ、ひどいなぁ」と言った。
丸山さんはまたひゃっひゃっと笑った。
「嵌められた、俺が極悪人みたいだ」
彼は何故だかずっと笑っている。
私は時計を見ると十分立っていた休憩を終わりにしようとリュックを背負った。
だけども何故だか軽い、違和感を感じて振り向くと丸山さんが5本のお茶を両手に持っていた。
「亜紀先生、おれ半分持ちますよ。その代わり下山して誰も必要なさそうだったら全部俺に下さい、はいこれで取引成立」
正直優しいなと思ったし、素敵だなと思った。
やっぱり芸人として成功するには周囲の人々にこういう気遣いができなければならないのだ。
テレビではキャラとして「女の人と一生分かり合えない」と言っておきながらのこの優しさ。
この人きっとモテるだろうな。
「ありがとうございます」そう言うと丸山さんは照れたように笑った。
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