episode 01. こっそりはぁはぁ妄想女子。

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はっ! しかもいいかーちゃん役を遂行したい身としては、ここは「タカシが元気に大きくなりますように」とかにしておくべきっ? ウンウンとひとしきり悩んでからようやく二枚の短冊を保護者用の筆ペンで書き終えたときには、さっきまでのドッタンバッタンが嘘のように聞こえなくなっていた。 他の子のお迎えも今日は早めだったようで、仕事の早い主任先生がささーっと辺りの戸締りを済ませている。 にっこりしながら帰ろうとする主任先生に、笹飾りの作業を続けようとする山内先生。 はっ、これはもしかしてチャンスっ? なんて内心ドキドキしつつ、わたしは努めてふつうに、いつも観察している他のお母さんたちのように、言った。 「ありゃ。うちのやんちゃ坊主は眠っちゃった」 「はは、さっきまであんなに元気だったのにね。今日はタカシ、大活躍でしたから」 今日の高志は、ゴムプールで水遊びをして、水鉄砲でドロケイごっこをして、庭にシャベルで穴を掘って泥プールを作って小さい子と泥んこ遊びをしてあげて(へぇーお兄ちゃん役もできるのね!)、おやつ作りではおろし器に夢中でニンジンとりんごとジャガイモを、ひたすらおろしまくっていたらしい。 そりゃ、疲れて寝ちゃうはずだ。 それにしても。 と、保護者には素っ気ないけれど高志を遊ばせて見守るときはめっちゃ優しい顔でにこにこしている山内先生はすてきだ。 そもそも、保育園より時間がゆったりしているのがいいのか、所長先生の人柄か、おひさまの先生たちはみんなゆったりと子どもを待つ余裕があって、優しい。 うちのやんちゃ坊主だって、空気読めないように見えて大人のピリピリには敏感だから、ここでのびのびさせてもらうと本当にこどもらしい表情に戻ったりする。 ううう。
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