僕は独りで夜を越える

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式典のスピーチを成し遂げた後、早々と教室に戻った彼女は窓際の壁にもたれかかって泣いていた。窓が集めた光が、カーテンを白く透かしている。目一杯開けた窓から、冷たい空気が教室に流れ込む。翻るカーテンに何度身体をさすられても、彼女は気にも止めないようだった。  スピーチ前もスピーチ中もスピーチ後も彼女の一挙一動に心を奪われていた僕は、体育館前でグダグダしていたクラスメイトをまいて、実にスムーズに彼女に追いついたのだ。  「細川?」  顔を覆った両手の指の隙間から、綺麗な粒が何度も滴り落ちた。背中から照りつける日の光で、彼女の神々しさが増したような気がした。  「どしたん?」  返事はない。しゃくりあげるだけ。  しゃくりあげては、時々 右腕の袖で涙を拭うだけ。  拒絶された。  ……と思った。  僕はそれ以上踏み込むのが怖くなって、それっきり黙りこくってしまった。  こんなはずじゃなかった。  教室から手を伸ばせばすぐに届いてしまいそうな木の枝を、細川の背中越しに見ていた。段々と落ち着く彼女の呼吸を感じながら、いま彼女の近くにいるのは僕だけなんだと小さく胸をときめかせた。そんなちっぽけなことでも舞い上がってしまうほど、僕は純情だったのだ。  それでも、彼女の青いカッターシャツの胸元が濃く染まっているのを横目で見ていたことは否定しない。  
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