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こんな時聞いてみたいと思ったの なぜかいつものあなたの声を
手に握っている携帯が、先ほどからしつこいほどに振動して着信をしらせているが、無視して走り続ける。
やがて小さな公園についた。ブランコと、ピンクのゾウを模した滑り台、それに狭い砂場があるだけの公園。
昼間は子供たちの声が響くであろうその場所も、今は心もとない街灯の光だけを頼りに、不気味な静けさに包まれている。
ブランコに腰掛けると、鎖がガチャガチャと妙に大きな音を立てた。
相変わらず振動を続ける携帯電話を開くと、発信元の表示は「自宅」。面倒くさくなって、その番号を着信拒否に設定する。ついでに家族それぞれの携帯の番号も。
やっと静かになった。
静けさと共に、心が落ち着いて来るにつれ、外気の冷たさが身に染みる。コートも着ないで飛び出してきてしまったのだから当たり前だ。けれど、打たれた頬だけは熱を持ってじんじんと痛む。
これからどうしよう……家には帰りたくない……
でも、お金もない。手元にあるのは時代遅れのガラケーのみ。これで友達でもいれば、無理を言って一晩泊めてもらうという選択肢もあるだろうけれど、さすがに先輩たちにそんな事をお願いするわけにもいかない。
私って、やっぱりぼっちなのかな……
急に寂しさに襲われた。と、同時に不意に強い思いがこみ上げる。なんでもいい。声が聴きたい。と。
私は携帯のアドレス帳を開くと、決して多くないリストの中から、ひとつの名前にカーソルを合わせる。けれど、指は発信ボタンを押すのをためらう。
【今とても緊張してる理由はね君にはじめて電話するから】
思わず苦笑してしまう。こんな時まで短歌を考えてしまうなんて。
けれど、おかげか少し緊張がほぐれた。その勢いのまま、思い切って発信ボタンを押す。
暫く耳元に響く呼び出し音。その間が妙に長く感じる。実際はほんの数秒だったのかもしれないが。
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