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自転車を壊すだけでは飽き足らず 乙女心もクラッシュ寸前
「森夜さん」
駅の改札を出たところで突然名前を呼ばれたような気がした。
いや、確かに呼ばれたよね?
名前を呼ばれるなんて授業中に教師に指される時くらいしかないから、本当に自分の事なのか自信がない。
おそるおそる顔を向けると、そこには小田桐先輩がいて、にこりと笑うとこちらに向かって軽く手を上げた。どうやら本当に私の名前を呼んでいたようだ。
その隣には仏頂面の日比木先輩。まだ顔のガーゼは取れていない。
「同じ電車だったみたいだね。良かったら一緒に学校まで行かない? あ、でも、もしかして友達と待ち合わせでもしてるのかな?」
その言葉に私は全力で首を横に振る。
「い、いえいえ、まったく問題ありません! 私でよろしければ是非ともお供させていただきます!」
隣にいる日比木先輩は相変わらず怖そうだけれど、一緒に登校することに関しては何も異議を唱えなかった。
そういえば、先輩って昨日は自転車がどうとか言ってなかったっけ? 今日は徒歩なのかな。
「ええと、日比木先輩って自転車通学じゃないんですか?」
「……昨日聞いただろ。電柱にぶつかったって。その衝撃で色々ぶっ壊れて使い物にならなくなっちまったんだよ。察しろよ。はあ、俺のイプシロン号があんな無残な姿に……」
その時の状況を思い出したのか、先輩のテンションが目に見えて下がった。
なにやらかっこよさげな名前をつけるほど愛着のあった自転車だったようだ。
ともあれ、誰かと一緒に登校するなんて随分と久しぶりだ。なんだか今日はいいことありそうな気がする。
そんなことを考えながら、私は先輩達と共に駅を出た。
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