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憤慨しかけた私だったが、しかし……と、すぐに考え直す。
ここで部活を辞めるのは簡単だ。でも、そうしたら、この先輩たちとの接点はなくなってしまう。せっかく知り合いになれたのに。
それに、私は短歌を始めたばかりだし、良し悪しだってわからない。経験者である先輩の言うことが正しいのかもしれない。と。
ここは素直に教えを乞うことにしよう。そう思って不機嫌そうな先輩におそるおそる問う。
「あの、それじゃあ、どういうのが『良い短歌』なんですか? ぜひ教えてください」
すると日比木先輩が「え?」と声を上げると目を泳がせ始めた。それから無言になると、やたら腕や足を組んだり解いたりと落ち着きなく振る舞う。
「……そりゃ、ほら、アレだよアレ。心に響くっつーか、ドーンとしてガーンとするようなアレだ」
ようやく口を開いたかと思ったらそんな言葉が出てきた。
うーん? 抽象的でよくわからない。ドーンとしてガーン……?
首を傾げていると、斜め前から笑い声が聞こえた。
今まで何かの作業をしていた小田桐先輩だ。
「日比木、お前、変に格好つけようとしないで正直に言えよ。自分にもわからないって」
「え?」
わからない? 先輩にも?
私の疑問の声に答えるように小田桐先輩が続ける。
「正直なところ、僕らも自分達の短歌が良いかどうかなんてわからないんだ。文筆家でもないただの高校生なんだから当然だよね。毎回才能ある歌人に添削して貰えるなら別かもしれないけど」
「でも、確か顧問の先生は国語の担当なんですよね?」
それなら短歌に詳しいのでは、と思ったのだが、小田桐先輩は苦笑する。
「そうなんだけど、先生も教科書に載ってるような有名な短歌なら解説があるからまだしも、歌人ってわけじゃないし、素人の高校生が作ったものはどう講評していいかわからないんだって。そういうわけで、僕達はただがむしゃらに、ありのままに、思ったまま短歌を作るしかないのさ」
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