62人が本棚に入れています
本棚に追加
短歌部……そんな部がこの高校に存在していたとは、入学して5ヵ月近く経った今の今まで全然知らなかった。
それにしても……
かんたんたんか
短歌じゃなくて回文じゃないか。
普通はもっとこう、見せたいものをどーんと持ってくるものじゃないの? この場合は短歌そのものを。
『かんたんたんか』とかいう見出しでいいの? マーケティング間違ってるんじゃないの?
しかし私がその一見意味不明な言葉に惹かれたのも事実である。それをかんがみれば、ある意味正しい宣伝手法なのだろうか……?
しばし掲示板の前で腕組みしながら考える。
でも、この短歌、ちょっといいかも。
私は短歌の良し悪しなんてまったくわからないけれど、一番目の短歌の状況だとかは同意できる。
勉強中に「ちょっと休憩しようかな」なんて思って関係ない本を手に取ったら、そのまま読みふけっちゃったりとか。あるある現象だ。
二番目の歌は、なんていうか、好きな人にこんな事言われてみたい……みたいな。
まあ、考えたところでそんな相手いないんですけどね。私には好きな人どころか――
その時、賑やかな笑い交じりの話し声が聞こえて私は目を向ける。同じクラスの女の子のグループだ。今から下校するらしい。
私の背中まである飾り気の無いまっすぐな黒髪とは対照的に、ゆるく波打ったり、可愛らしい髪飾りやヘアピンで飾られた、甘いチョコレートやミルクティーのような色の髪の毛。
制服である紺色のブレザーなど関係ないというように、とりどりの淡い色のカーディガンを纏い、グレーを基調としたチェック柄のスカートだって短くて、すらりと長い足が大胆に露出している。私なんて膝くらいの丈だというのに……。
私は彼女らが徐々に近づいてくるのを窺いながら、微かな希望と共に思い切って振り返る。
「あ、あの……ば、ばいばい……」
華やかな雰囲気を纏ういまどきの女の子たちは、私の言葉など聞こえなかったかのように、いや、存在そのものが無かったかのように、こちらに目を向けることも無く、きゃあきゃあとじゃれあいながら通り過ぎていった。
うう……今日もだめだった……
肩を落としながら溜息を漏らす私だったが、ふと、先ほどまで見ていた短歌部のポスターへと目を戻す。
『短歌部 放課後に化学室にて活動中!』
最初のコメントを投稿しよう!