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私の通う高校の校舎は上から見るとカタカナの「エ」のような形をしている。
そのエの上の棒の右側。廊下の一番端にある「化学室」と書かれたプレートの下で、私はうろうろしていた。隣は化学準備室という名の物置で、普段は施錠されている。
だから化学室といえばここしかない。そういうわけでここで間違いないはず。
にもかかわらず何故部屋に入らないのか。理由は単純。短歌部のポスターを見てやってきたはいいものの、入室するタイミングを見計らっているのだ。
はたして短歌をほとんど知らない私が短歌部の方々に受け入れられるものだろうか。掲示板で見た短歌がちょっと気になるという程度で。いや、そもそも入部すると決めたわけじゃないのだが……だからこそ余計に躊躇っている。
けれど、先ほどから化学室の中はやけに静かで物音ひとつしない。本当に活動してるのかな……?
……えーい。いつまでもこうしていても仕方がない。迷わず戦場へと飛び込むのだ私よ。今こそ。そう今こそ!
思い切って化学室の引き戸を、それでもおそるおそる開けると、途端に声が飛んで来た。
「遅えぞ小田桐……って、お前、誰?」
そこにいたのはひとりの男子生徒。鮮やかな金髪は一見無造作に乱れているようで、野生的な印象を受ける。その隙間から覗く耳にはシルバーのピアス。
ブレザーのボタンは全て外されており、開いた襟元にはネクタイすらしていない。その思いっきり校則に反した格好が、彼の反抗心を表しているような気がした。
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