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鋭い瞳がこちらを見つめるが、それよりも目立っているのは、頬に貼られた大きなガーゼ。よく見れば顔には他にも擦り傷がある。あちこち怪我しているみたいだ。
こ、この人、めちゃくちゃ怖そう……もしかして不良とか……? 顔の傷もケンカしてできた怪我だったり……? こんな人が短歌部の部員? ほんとに?
なんだか危険な空気を察知した私は、慌てて首を横に振る。
「いえ、あの、ちょっと部屋を間違えたみたいで……すみません……」
思わず謝りながら後ずさると、背中が何かにどすんとぶつかった。
おかしいな。ドアは開けっ放しだったはずなのに。それに、ぶつかった感触は、ドアみたいに固くない。
「あっ、ごめん。こんなところに人がいると思わなくて」
その声に振り返ると、ぶつかったのはドアではなく、背の高い男子生徒だった。長すぎず短すぎない頭髪は、前髪を左のほうに流していて、緑がかったセルフレームの眼鏡をかけて知的な雰囲気を纏っている。
ブレザーのボタンもちゃんと留めていて、ネクタイもきっちり締めた、実に模範的で爽やかな男子生徒だ。
この人も短歌部員なのかな?
「大丈夫? 怪我しなかった? どこか痛いところはない?」
「は、はい。大丈夫です。こちらこそすみません……」
こちらを気遣う様子の眼鏡男子に、なんともない事を告げると、彼は安堵したように表情を緩めた。
「それならよかった。ところで君、ここに何か用かな?」
眼鏡男子は優しげな口調で尋ねてくるが、先ほど金髪男子に対して『部屋を間違えた』なんて言い訳した手前、いまさら短歌部を見学したいとは言い出せない。
それにやっぱり背後の金髪男子が怖い。
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