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これ以上心を読むのはやめて頂きたい。どうやら短歌部というのは私が考えていたより色々な意味で恐ろしい部のようだ。だめだ。早くここを離れよう。
しかし逃げようにも出入口は眼鏡男子が塞いでいてどうにもならない。
更に眼鏡男子は、私の逃走を阻止するかのように部屋の中に足を踏み入れると、ドアをぴしゃりと閉めた。
おののく私に対し、眼鏡男子は安心させるように柔らかな笑みを浮かべる。
「大丈夫。金髪のあいつは一見凶悪そうに見えるけど、実際はそれほど害はないから。あの顔の傷だって、今朝自転車に乗りながらスマホを操作してたせいで、電柱に気づかずに盛大にぶつかって転んだだけなんだ」
「おい小田桐、てめえ余計な事言うんじゃねえぞ!」
「あんまり大きい声出すなよ。この子が余計怖がるじゃないか。それに転んだのは事実だろ? 短歌に使えそうないい感じのフレーズを思いついたから、どうしてもメモしておきたかったって」
な、なんと。顔のガーゼはそれが原因だったのか……
あの金髪男子も意外と短歌愛に溢れている人物のようだ。しかもあの外見で自転車通学。バイクとか乗り回してそうなのに意外と地味。こう言ってはなんだけど似合わないなあ……
しかし今の話で確信した。やはりここは短歌部の部室で間違っていないらしい。
「その鞄持つよ。邪魔だろ?」
眼鏡男子はさりげなく私の手から通学鞄を取り上げると、金髪男子の座るテーブルまで歩いて行って手招きした。
「こっちにおいで。早速部活の話をしよう。君の席はここでいいかな?」
そう言って丸椅子をひとつ差し出す。
まずい。なんだかんだで鞄を奪われた。あの中にはお財布はもちろん定期券も入っているというのに、これでは逃げられない……あの眼鏡の人、優しそうに見えて結構強引なのかな……
ともあれ、完全に逃げ場を失った私は、なすすべもなく、差し出された椅子におそるおそる近づいて腰かけた。
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