学校の廊下の隅のポスターに惹かれて行くは未知なるところ 

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 不安になる私に小田切先輩は笑顔を向ける。 「あの短歌を見てくれたんだね。実はあれは僕たちが作ったものなんだよ。見てくれる人なんて少ないし、ましてや感想を貰える事なんて滅多にないから嬉しくて」  そうか。自分達の作品をあそこに掲示していたのか。 「でも、意外でした。ああいうのも短歌って言うんですね。私は短歌といえば、てっきり『ナントカなりけり~』みたいな感じかと思っていたので……」 「確かに、古典の授業なんかで習うのはそういう歌だよね。古今和歌集とか。でも今の短歌は自由に作っても何の問題も無いんだ。俳句と違って季語もないしね。俵万智の『サラダ記念日』とか有名だろ? 『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』っていう……」 「それなら国語の教科書で見たことあります!」  そうか。ああいうのも短歌っていうのか。 「そうだ、せっかくだし、森夜さんも今ここで短歌作ってみない?」 「え? いや、そんな、私なんかがいきなりそんな事、おそれ多い……」 「大丈夫だって。日頃思ってる事とか、今日あった出来事とか、なんでもいいからさ。もちろん嘘でも、妄想でも」  言いながら、手元のバインダーから短冊状の白い紙を取り出すと、私の前へと一枚滑らせる。 「うちの部ではこれに短歌を書くんだ。ただの紙に書くより、この方が気分出ると思わない? まるで素人の歌がちゃんとした作品になるような気がして」  確かに、長細い紙がなんとなく本格的な感じがする。額縁に入れて飾っておきたくなるような。掲示板に貼ってあったのもこの紙だった。
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