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流星群の日・夕方
ツーンと鼻をつくドブ川と生ゴミの臭いにもすっかり慣れた夕方。
人工的に作られた国・レコウユスの王都にある貧民街のドブで濁った川で清掃活動をしている者がいた。
膝下までドブ川に入って、ゴミを拾っていたのは、胸より上まである金色の髪を首の後ろで一つに縛った青年であった。
青年がゴミを拾っていたドブ川から出て、足を拭いていると複数人の軽やかな足音が聞こえてきた。
「お〜い! リュドヴィック!」
手を振りながらやって来たのは、この貧民街で暮らしている子供達だった。
リュドヴィックと呼ばれた青年は、子供達に気づくと、足を拭くのに座っていた石段から立ち上がった。
「どうかしたのか?」
「様子を見に来たんだ。せっかく、今日から流星群の日なのにさ。まだ、ゴミを拾っているのかと思って」
リーダー格の年長の男の子の言葉に、周りの子供達も頷いた。
「そうだよ! りゅうせいぐんだよ! 年に数回しかないんだよ!」
「りゅうせいぐんの日にむすばれた二人は、しあわせになるんだよ!」
口々に子供達は言うが、リュドヴィックは「へぇ〜」と、返したのだった。
「今夜は流星群の日だったのか。それで、王都の広場に男女が集まっていたのだな」
リュドヴィックが滞在している屋敷からこの貧民街にやって来るには、王都の中心部にある広場を通らなければならなかった。
広場を通った時に、いつも以上に男女が多く、誰もがそわそわして落ち着かなさそうにしていた。
それは、今夜から流星群の日だったからなのだろう。
この国の流星群の話なら、リュドヴィックも旅をしている時にも聞いた事があった。
レコウユスでは、年に数回、数日間にわたり、星が降る夜ーー流星群の日がある。
国を覆う丸い天井でもある空を、幾千もの星が流れるらしい。
それ以外にも、天気を完全に支配しているこの国において、流星群の期間である数日間は、必ず天気は晴れる事。
流星群の元で、愛を誓いあった男女は幸せになれるというのも聞いた事があった。
きっと、リュドヴィックの妹であり、今はこの国のハージェント男爵の元に嫁いだモニカと。
その夫であり、ハージェント男爵でもあるマキウスは、今夜は二人きりで過ごすのだろう。
もしかしたら、二人の子供であり、生まれて間もない娘のニコラも一緒かもしれない。
リュドヴィックが妹夫婦と姪の姿を頭の中で思い描いていると、子供達が口々に話し出した。
「そうだよ! リュドヴィックだって、今夜はいそがしいだろう! それなのに、こんなにおそくまで、ゴミなんて拾ってていいのかよ!?」
「せっかく、オレ達が教えに来たのにさ〜!」
「いや。私には関係ないからな。それよりも、少しでもゴミを拾って、君達が怪我をしないようにする方が大切……」
「そんなのは、別にいいんだよ!」
リュドヴィックの言葉に子供達は騒ぐ。
かつて、祖国で国一番の騎士と言われたリュドヴィックも、流石にたじたじになったのだった。
「私には、流星群を一緒に見るような女性はいないからいいんだ」
その言葉に、子供の一人が叫んだ。
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