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「……ったく……」
不機嫌な様子を露に髪をくしゃっと掻き上げ、未だコール音の止まない電話器に彼は手を伸ばした。そして映像をオフに、音声だけをオンにして電話を受ける。
「……あー、………………誰……?」
まだはっきりと覚醒していないのか、言葉を吐き出すのに時間がかかる。
その言葉に対して、電話の向こうから聞こえて来たのは同性からすれば少し高めの声。
『画像をオフにしておいて「誰?」はないんじゃない?』
相手はそう言って非難したが、彼は画像を送信することの出来るこの時代の電話があまり好きではなかった。たった今まで自分がどこで何をしていたのか相手に全部伝わってしまう。プライバシーも何もあったものてはない。そんな無神経さが気に入らない。
だが、この時代の人々は便利だとして、それが当然であるかのように声と画像を送り合っている。
『おはよう、ジェイクくん。今朝はいい天気だね。目覚めはどう?』
無理矢理起こされて目覚めなんかいいわけがない、とジェイクは思ったが、口にはしなかった。
その代わりに、
「リョウ」
と昔から付き合いのある友人の名前を呼んだ。
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