ヒーローにはなりたくない。

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 年長組の(たくみ)は、父の日に『ねむいたすくさん』という題名で、絵を描いた。  「たすくさん」というのは、巧のお父さんの名前だ。  それはどんな絵かというと、うつ伏せて寝ているお父さんの腰に、巧が乗っかっている絵だ。  べつに、いじめているわけじゃない。  寝ているお父さんを起こそうとして、おなかの上に座ると、お父さんはときどき、びっくりして目を覚ます。  びっくりしないときは、 「重いんだけど」  と文句を言って、うつ伏せに体勢を変える。 「おなかじゃなくて、背中に乗って」  と言われるので、巧はそうする。  そうして、お父さんをまたいで布団に膝をついたまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねるように、背中の上を肩から腰まで行ったり来たりする。  すると、 「ああー、気持ちいいや」  と言って、お父さんは喜んでくれる。  それを描いたのが、『ねむいたすくさん』の絵だ。  これは先生たちにほめられて、市の「こどもの絵コンクール」に出品されることになった。  でもお父さんは、ほめてはくれたけれど、嬉しそうというよりは、ちょっと恥ずかしそうに苦笑いした。  おばあちゃんに至っては、「恥ずかしい」とはっきり言う。  せっかく入選したのに、巧は悲しかった。
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