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家族と夕食を食べ終え、入浴を済ませると洗面台の前に立つ。鏡を見ながらいつもの肌の手入れをしていると、ニキビクリームをつけるところで迷いが生じた。
先週から使っているが効き目がないように感じる。違う種類の新しい物を買うべきだろうかと思い始めていた。今度はそれなりに値段の高い物を買うべきかと悩む。
「ねぇ、お姉ちゃん。いつまで洗面台占拠してんの。私も使いたいんだけど」
後ろからいきなり声をかけられた。振り向くと一歳年下の妹である明音が両手を腰に当てるポーズをして立っていた。
「あーごめん、ごめん。すぐどくからさ」
洗面台から退くと明音に場所を譲る。暫く明音の肌の手入れの様子を後ろから眺めていた。
明音の肌はニキビもなくとても綺麗だった。遺伝的なものだと思っていたけれど違うのかもしれない。正直言って羨ましいと感じる。
「いいよねー、明音は肌綺麗で。私なんかニキビだよニキビ」
意識することなく言葉にしていた。嫌味のように聞こえたかもしれないと心配になったが、明音は気にする様子を見せず言葉を返してきた。
「別にそんなことないと思うけど。でも、お姉ちゃんそのニキビは結構目立つね。私のニキビケアクリーム貸してあげようか」
「いいの? 使っちゃって」
「ちょっと待ってて、もう少しで終わるから」
明音は肌の手入れを済ますと、洗面台から離れて自分の部屋に戻って行った。洗面所で待っていると明音が急ぎ足で戻ってきた。手にはチューブが握られている。
「はい、これ」
「ありがとう」
明音からニキビケアクリームを手渡しされた。
「これ、前ニキビ出来たとき使ったらすぐ効果あったから、たぶんお姉ちゃんにも効くと思うよ。だから一旦、騙されたと思って使ってみて」
明音はにこやかな笑みを浮かべていた。
渡されたクリームをまじまじと私は見つめる。騙されたと思ってか。兎にも角にもニキビは治したいので有り難く使わせてもらおう。
クリームをニキビの上に塗っていく。頼む、効いてよ。私は祈るような想いでニキビケアクリームを使っていた。
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