541人が本棚に入れています
本棚に追加
……身体が、ビクともしない。
体重かけられていると言っても、この体格差だぞ。
なのに、何故。
手を触れられてない両腕まで、動かない。
「くそっ、拘束魔法か!」
「うん。そのベッドに掛けといたよ。横になったら発動するんだ」
「どういうつもりだよッ、許さんぞ!」
「『どういうつもり』って。アンタを、オレのモノにするつもりだけど?」
「!?」
それってつまり。
嫌な予感に、喉が引き攣れる。
まさかこのまま、レイプされるってことじゃ――。
恐怖と、怒りで頭の芯が焼き切れそうな感覚で身震いした。
「せ、性奴隷だからか。僕が」
だから好きにしていいと?
悔しくて歯噛みする僕に、彼は軽く首を横に振って答えた。
「違う違う。まさかアンタ、分かってないの? 自分が何者かって。どうして皆がアンタを欲しがるのか」
「どういう事だ」
僕は僕だ。
こう言いたくはないが、魔法使いとか魔物とかでなく平凡な。
少し剣の腕に覚えがあるレベルの人間の男。
それがなんで。
「訳わかんない事言ってんじゃないッ、このクソガキッ!」
唯一自由になる、瞳で彼を睨みつけ怒鳴り付ける。
だって僕は、自身の運命に悲観するほど悲劇のヒーローでもヒロインでもないから。
こうなったら、徹底的に抗ってやるッッ!
……とは言っても。
いくら懸命に動かそうとしても、手足はまるで見えない鎖に繋がれたみたいに重い。
暴れれば暴れるほど、それはまるで意志を持っているかのように、いっそう絡みついてくる。
「くそぉぉッ、この野郎! 離しやがれ、ガキのクセに」
「ガキじゃないぜ、こいつ」
「!?」
思わぬ所から声がした。
驚いて、その方向に視線を走らせる。
すると――。
「よぉ、ケルタ」
「エト様」
部屋の入口。
壁に寄りかかり、のんびりと声を掛けたのは魔王の息子だった。
対するケルタは、先程の余裕の表情とは一転。
険しい顔で睨みつけている。
「俺にもよく分かんねぇけどさぁ」
エトは、そう呟くとゆっくりとベッドに近付いてくる。
迫るような緊張感。
それはこの二人だけでなく、拘束された僕自身も感じていた。
「この喧嘩は、なんだか買わないといけねぇ気がするんだよな。ケルタ、お前もだろ?」
そう問われた少年は。
「まぁ、そうですね。でも」
と、口元だけ薄く笑い言葉を次ぐ。
「エト様とて、手加減はしませんよ?」
少年の顔が、歪んだ。
最初のコメントを投稿しよう!