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「前々から、ちょっと引っかかってたんだよなぁ。その態度」
「あー、気のせいじゃないですか? 」
面白くなさそうに顔を顰めるエト。
口元だけの笑みで、目に敵意を宿すケルタ。
そして二人が取り出したのは、杖だ。
――あれは魔法使いの杖。
人間界にも、魔法を使える者はいる。だから目にしたことはある。
「おいおい。ここでやるのか」
少し慌てたような声の彼を、ケルタは嘲った。
「なんですか、エト様。もしかして、ビビってます?」
「あ゙? お前もう一回言ってみろ」
「ふっ……大人気ないですねぇ」
「うるせーっ、お前のそのナリは見た目だけだろうが!」
いよいよ穏やかな表情を捨てて、牙を剥くような顔になったエト。
対して飄々とした物言いの少年は、肩を竦めて僕の方をチラリと見た。
「嫌だなぁ、オレの秘密をバラさないで下さいよ」
「お前、ルベルもダマしてやがったか。おいッ、コイツはこんな姿だが本来、俺達よりよっぽど年上なんだぜ」
「えっ、うそッ」
思わずベッドの上から声を上げる。
「本当本当。ドワーフで、見た目年齢が異常に若いんだよ」
「ど、ドワーフ?」
ダークエルフじゃなかったのか。
「じゃあ、エトの弟っていうのは」
「こんな弟居てたまるかよッ!」
――するとあれは全部、嘘。
僕は騙されていたのか。
まぁ、別にそんなことで打ちひしがれるほど、僕は気の良い人間じゃないけどさ。
そんな事より。
「この嘘吐き野郎、魔法さっさと解けぇぇぇッ!!」
渾身の力を込めて叫ぶ。
アホ男二人のバトルなんざ、どーでもいい。
僕はむしろ、混乱に乗じて逃げ出す機会を伺っていた。
「は? 駄目だよ」
「それはダメに決まってんだろ」
ほぼ同時に即答される。
「なんでだよッ!?」
「当たり前でしょ。ルベルはオレ達のエモノなんだから」
「え、え、獲物」
「そりゃあ、勝った方がルベルと××××して××を――」
「そ、それ以上言うな!!!」
とんでもない卑猥な言葉に思わず声を上げる。
ヤバい、こいつ凄くヤバい。
変態だ。
……うっそりと笑った少年は、まるで年下の表情じゃない。
その瞳と言葉に恐怖を覚えたのは、当然のことで。
そんなやり取りを見かねたのか、エトが横から言葉を挟んできた。
「おいケルタ、ルベルを怖がらせてんじゃねぇよ。だ、だいたい、こういう事は順序を経てだな……」
「お前は、頬染めて何言っとるんだーッ!」
くそぉ、こいつら二人ともぶん殴りたい。
僕はどっちに対しても、ヤラれるつもりはないからな。
大体、なんでここの奴らは人の話を聞かないんだ!
バカか、バカなのか!?
「え、エト。お前は、嫌だろ? 僕みたいな男を嫁にするなんて」
一縷の望みってやつを託して、話しかける。
すると複雑そうな表情をした彼が、俯いた。
――よしっ、断れ!
『女の子の方が』とか言って、僕をフッてくれぇぇぇッ!!
かつて、こんなにフラれる事を望んだだろうか。
女なら、少々デブでもブスでも好きだ。
女ってだけで基本愛せるし、尊敬もしている。
だからあの性悪妹だって、内心憎みきれないのはそのせいだと思う。
僕の女好きは、それほどまでに一貫しているのだ。
「あぁ、その事なら母さんから話は聞いた。ごめん、ルベル」
よしよしよしッ、このまま断ってしまえ。
んで、さっさと魔王と奥方呼んで来い!!
と、内心ガッツポーズ決めた時だった。
「お前なら抱ける、いや。抱きたい。あと好き、かも」
「なんだそりゃァァァァッ!?」
ツッコミも叫んだ。
だって、今のは断る流れだっただろう!?
なんでノリみたく、告白しちゃうんだよ!
これだから童貞はァァァッ。
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