541人が本棚に入れています
本棚に追加
ワナワナと震える僕をよそに、馬鹿どもは睨み合う。
「先制攻撃、行きますね」
先に動いたのはケルタ。
杖を振り、素早く呪文を唱える。
「!」
爆ぜた火花と、音。
突き出した杖の先から放たれた雷は、真っ直ぐ彼の元に飛び込んだ。
「っぶねぇな!」
咄嗟に身を翻し、飛び退いた先。
エトは悪態を吐く。
その手の杖には既に、紅い光が宿っていた。
「覚悟しろ、この間男ッ」
刹那、火炎が舞う。
渦を巻いて、ケルタを襲った。
「オレ達はね。愛し合っているんですよ」
すぐさま再び呪文を唱える。
蒼い光の盾
獰猛な炎を受け止め、瞬く間に消していく。
「っ、な、なんだよ。このバトルは」
これが魔法を使った闘いか。
人間界だと滅多に見ることはない。
間近で見ると、えらいド迫力。
「っていうか。お前ら、危ないだろうが!」
人のすぐ近くで、ドンパチやりがって。
当然、文句を叫べば。
「大丈夫だよ。ほら、ちゃんと結界張ってあるし」
ケルタが、やけに甘い声と表情で僕を振り返った。
「大事なお嫁さんに、怪我させたくないからね」
「誰がお嫁さんだ、誰がッ!」
――いい加減、ツッコミも疲れてきた。
だいたい、いつ僕がこいつと愛し合ったんだ!?
エトも間男はやめろ、まるで夫婦みたいだろうが。
なんて言っても。
あのイカれた男たちの耳にはには、届くまい。
……今もジリジリと距離と隙を伺って、杖構えている。
「諦めの悪い男はモテませんよ。エト様」
「うっせぇ、チビ! お前こそ、下手な嘘吐いてんじゃねぇよ」
「まぁ少し盛りましたけど。だいたい合ってるじゃないですか」
「合ってねーよ!?」
「エト様とは兄弟(ように育ちました)し、魔王の(遠い親類の)妾の子ですよ」
「それ、かなり色々端折ってるだろーがよッ!!」
確かに酷い。
つまり。彼の話はほぼ嘘で、本当は従者の一人と言うわけだ。
しかしそのやり取りからして、兄弟のように育ったというのは、あながち間違いじゃないらしい。
「これからここで、彼と初夜を共にするんですから。邪魔しないで下さい」
「しょ、初夜ァァァ!?」
「当たり前でしょ。その後でゆっくりこの城から攫ってやりますよ」
「お前ッ、堂々とレイプ&誘拐を宣言すんじゃない」
「うるさいです。そこで見ます? 見物料取りますけど」
「取るのかよッ」
そんな下らないやり取りをしながらも、半ば殺気に近い空気は蔓延していく。
正に『私の為に争わないで』だ。
これ程嬉しくないシチュエーション無いけどな。
僕は、大きくため息を吐いて視線を逸らす。
その時だった――。
「こんな時間に、騒いでんじゃねーわよッ!!」
怒号、同時に衝撃音。
……爆音と共に、一人の人影が部屋に乱入してきた。
最初のコメントを投稿しよう!