541人が本棚に入れています
本棚に追加
※※
昼もかなり過ぎた時刻。
僕は城の中を探索ついでに見つけた、書物庫に篭っていた。
――さすが魔界だ。
見たことのない書籍が沢山ある。
しかも多くが、古い羊皮紙に書かれた物だ。
状態は良く、内容は興味深い。
魔法書から魔界の歴史書。
魔獣についての、挿絵付きの物まである。
「んん?」
本棚から飛び出た紙。
紙というより、手紙か。
こっちは粗末な素材だ。
「なんだ、これ」
本棚に挟まった手紙。
封筒はなく、ただ一枚だけのだ。
引っ張り出して、表面に書かれた文字を目で追おうとした時。
「何してんだよ。そこで」
人の声。
慌てて振り返ると同時に、手紙をポケットにねじ込んだ。
「エト」
ドアの開く音などしなかった。
でもいつの間にか、入口に立っていたのだ。
「面白い物、あるか?」
のんびりと言って、こちらに歩み寄ってくる。
――なんだか、酷くヤマシイ事をしているような。
そんな気分を吹き飛ばすように、小さく咳払いする。
「まぁ、どれも興味深いな。人間界には、到底お目にかかれない。一冊、部屋に持って行っても構わないだろうか?」
「あー。良いんじゃねぇかな。でもよぉ、小難しいモノばっかだぜ」
彼は、つまらなさそうに言う。
どうやら読書は苦手らしい。
「そこが良いんだよ。君の知能レベルに合うかは分からんがな」
「あはは、そーなんだよぁ」
明らかに嫌味を言ったのに、おおらかに返されて拍子抜けする。
そして彼は、ニコニコと僕の隣に来て話しかけてきた。
「今さ、家庭教師のマギスから逃げて来たんだぜ。だってアイツ、すげぇ厳しいんだもん」
「座学か」
「そう。古代オーガ語なんて、もう訳わかんねぇよ」
「ふーん」
魔界には、たくさんの魔物がいる。
それぞれの文化や風習も、学んで置く事が必要な立場なのだろう。
「面白そうだな」
「ゲッ! ルベルってば、マジで言ってんのか!?」
彼はまるで、好き嫌いが激しい子供みたいな顔をした。
さては、勉強がかなり苦手か。
「君は、見た目通りだな」
「どういう意味だよ」
「おっ。さすがに嫌味が通じたか」
「ひでぇな、おい」
情けない顔をしているが、怒ってはいない。
こうして見ると、彼は僕より幾つか下に見える。
どこか、こう。純粋に見えるんだ。
最初のコメントを投稿しよう!